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マブラヴ3.5章21-3話を更新

お待たせしました。

やや文章の少ない、21-3話です。
現実の自分はハードワークで眼がシパシパする上にハナミズキくんがズルズルと。
インフルエンザとかマジ勘弁♪ てな状況です。そうなると仕事が詰むので。

落ち着いて更新できるのは3月以降になりそう。

特に2月末は修羅場☆ラ☆バンバ。うふふ。

………年度末なんて呪われろー。



23-3話 一理 ~complaint~







非常灯のような色付きの光、僅かに照らされた廊下を走っているドーゥルは横を走っている男に尋ねた。

「シャルヴェ大尉………貴官はどうして、あの場で背を向けた」

腑に落ちなかったのだ。フェニックス計画を続けたいという衛士であれば、あの場での最善はメリエムに真実を告げることである。何者かの意図によって踊らされていること、要求が通ったとして難民の風当たりが強くなること。原子炉が破壊されでもすれば、どういった事になるのか分からない。報復行為として、虐殺が始まってもおかしくはないのだ。
メリエムは弱気になっていた。あの場で順序立てて分かりやすいように説けば、あるいはテロ行為を止めようという気になったかもしれない。

「―――いや、違うか。メリエムが一人で現れた事を考えれば………」

「中尉の察した通りだ。もう遅い。彼女一人が反対した所で無駄だ。このテロは、力づくでしか終わらせられない」

もしもメリエム・ザーナーがカリスマ性に溢れた、仲間の信頼厚き指導者であれば違ったかもしれない。だが、彼女は一人で赴いた。それが答えとなってしまう。
そういった存在であれば、丸腰の上で一人交渉に赴くなど許されなかっただろう。それを許されたということは、つまり彼女の代わりがいくらでも居る、ということになる。

ドーゥルは彼女の様子を思い出し、納得した。メリエム・ザーナーは根っからのテロリストという訳ではない。ロードスの英雄に自分の思想を否定されたというだけで戦意が消沈する、強気一辺倒な猪ではない。さりとて、群れを守ろうとする誇り高き狼とも違う。

狼は殺しを肯定する。群れを守るために相手を殺傷する、その行為を疑わない。
ドーゥルは一人、内心で呟いた。

(………間違ってない。相手にそうした言葉を向けるのは、自分が間違っているかもしれないという思いを持っているからだ)

そうした揺らぎを持っている人間が、多くの仲間を動かすことはできない。命令は出来ようが、その人物の芯を動かすことはできないのだ。ましてやこのような大規模なテロを先導することなど不可能。殺した所でなんの解決にもならなくなる。

「殺すことに意味はない。だから………分かりやすい形で糾弾したのか」

フランツは肩をすくめるだけで、言葉は返さなかった。

「テロリストは信じない―――そういうことだな」

「自分の身が可愛かっただけだ。それに………あれだけのやり取りで揺らぐような相手だったのもな。別の指導者が居るのはすぐに分かった。別口で後詰が用意されている可能性もあった」

丁寧に説明している暇などなかったし、単独に見せかけて後ろから新手が来る可能性もあった。目的は、さっさとメリエムの元から立ち去ることと、糾弾の言葉によって多少なりともメリエムを揺らがせてテロリストの仲間割れを誘発することにあった。

「………間違っていないという言葉も嘘か」

「嘘じゃない。間違っていないさ、アンタも彼女も、俺も。正しくもないが」

フランツは自嘲した。乾いた笑いで、言う。

「白い刃の先に籠めて、弾頭に載せて主張しあう。死体の上で正義を高らかに叫ぶ?――――滑稽だな」

必要な時もあるんだろうが。フランツは祖国の事を思い出し、苦笑した。
ドーゥルもフランツの言っている事を悟り、同じ苦笑を返した。

「自由、平等、友愛のためにか」

「生きるために戦った。それは間違いじゃない。でも人殺しを正しいだなんて呼びたくはないな」

「………正しいのだろ。だが、甘いと言わざるを得ないな」

軍人は敵対者を殲滅する職業だ。守るために殺すのが軍務である。
フランツは自嘲した。

「その通りだ。でも、正義の形はアレじゃないってことを………そう在って欲しいと思うのだけは。平等に、友愛を信じていい自由があるはずだ」

社会という広場がある。そこは見せかけは綺麗かもしれない。
だが、一度捲れ上がれば裏地が見える。そこは汚いものばかりでびっしりだ。社会の中で、正しい論理だけで回っている場所などどこにもない。

フランツはそれに対して、何も異議を唱えることはない。同時に、賛同もしない。その中で自分の正理だけを分かってもらいたいなどという願望こそが甘えだと考えていた。
人は違う。他人は異なるから他人だ。どうしても理解されない時がある。
だからこそ、誤魔化すのだ。妥協の道を選ぶ。時には間違いを混じらせながらも前に。

いつしか諦めるのだ。全ての人間に理解されようとは思わないと。

(そうだ。ひょっとしたら間違っているのかもしれない。もっと良い方法があるのかもしれない――――だけど、“やる”んだ)

自分が正しいと思いたい何かのために。否定されようとも、違うと叫び続ける。
メリエム・ザーナーも、長じればそうなるかもしれない。
人との交流は否定と肯定の連続だ。だが、そうした事を繰り返すことでしか人は意思の純度を高めることができない。

そしてフランツがあの場で背を向けたのは、もう一つの理由があったからだ。フランツは経験則から結論を下していた。あの手合は迷う時は迷うが、家族か恋人か親友か、誰か一人を失うだけで思考の歯車が別のものに変容する。この変事に、関わりあいになりたい手合いではなかった。

「まあ、もっとも………」

フランツはそうして、笑った。


「正しいとか、間違ってるとか。考える前に動くような馬鹿も居たけどな」















残骸と健在な戦術機だけが場を占めている戦場――――それを一変させる事態が、空に在った。一度でもそれを見たことがある衛士ならば忘れる筈がない、忌々しい死の光が空を走ったのだ。遠く、残影にすぎないものだが、それをよく知る衛士達は肌で感じ取っていた。

『おい、どうしたタリサ!』

『冗談、じゃないよな………っ! くそっ、なんで北米大陸にBETAが居るんだよ!』

『なっ!?』

『レーザーだ! 今、空に向けて光線級が………っ!?』

タリサ・マナンダルは叫ぶと、気づいたようにハッした表情になった。
レーザーが照射されたということは、空に居た何かが撃墜されたということ。その場に居る全員が、その撃墜されたものに心当たりがあった。

『一度照射されれば、回避することは不可能………成程、対空兵器としてこれ以上有用なものはないな』

『確かにそうだ――――ってオッサン、冷静に言ってる場合じゃねーだろ』

『口に気をつけ給え………理解はしている。問題が別の所にあることもだ』

北米大陸にBETAが居るというのは、あり得ない話ではない。サンダークは思い当たる節があった。

『前線より遠い場所だ。私達が聞かされていない、極秘のBETA研究施設が建設されていてもおかしくはない。問題はテロリスト共がその情報を握っていたということだ』

BETA研究施設は秘めているモノの危険度が高いが故に、機密レベルも高い。セキュリティも当然、他の場所より数段は上の筈である。それを事前に調べ上げてテロに利用するなど、難民解放戦線単独ではまず不可能だった。

『少尉の聞きたいことも、それか? あるいは、逃げられた“手練の”衛士の情報が欲しいのか』

サンダークは手練という部分を意識的に強調して言った。武はそれに対して無言を貫いた。増援が来て乱戦になった最中、逃げられたのは一機だけだ。
その他のテロリストの部隊は制圧済みだ。指揮官機と思われる一機だけ操縦者は健在だった。その人物に何を聞くのか。武はサンダークの言葉に肩を竦めようとした直後に視線の色を変えた。

『ちょっと待てよ中尉。何するつもりだ』

『今は非常事態だ、少しでも情報が欲しい。最適な方法は“知れている”だろう』

サンダークがクリスカの方を見ながら、武に告げる。
武は向けられた視線が細まるのを見ると、その意図を察した。
その瞳に敵意を載せて、サンダークに返す。

だが、その視線に鋭さは無く、サンダークもそれに気づいていた。
両者の見解は一致していたからでもあった――――悠長に構えている時間はないと。

『………今は、事態の把握をするのが先です。尋問を始めますが』


そうして唯依は視線をぶつけ合う武とサンダークを置いて、尋問を始めた。








ユウヤ・ブリッジスは緊張の面持ちで尋問を聞いていた。敵の機体は四肢を切断されていて、反撃することなどできない状況だ。命が惜しい者であれば、この状況で情報を出し渋ることはないだろう。だが唯依の質問に対して返ってきたのは皮肉を混ぜた虚言のみ。ユウヤはテロリストの人をバカにしたような物言いを聞きながら、埒があかない状況に苛立ちを見せていた。

(サンダーク中尉には何が手がありそうだったけどな………いや、シロガネの奴もか?)
何かしらの隠し札があるらしい。ユウヤはそれが何であるのかを考えながらも、周囲の状況を整理していた。

テロリストはまだ健在。一味がBETA研究施設らしき場所を急襲、中に居たであろう光線級を利用して米軍の空爆を封殺するつもりらしい。あるいは、その他のBETAを使って米国に害を及ぼすのか。

(一刻も早く北米大陸から叩きだす必要がある………幸い、こっちの戦力は倍増した。確か、|E-04《ブラック・キャット》だったか)

ユウヤは短いながらも実際の眼で見た戦闘機動から、E-04なる機体の性能とコンセプトを推測していた。

(小型ながらも推力は抜群。特に跳躍ユニットの出力が凄えな。それを部分的な可動翼で活かしきってる)

補助翼の可変機構というのは構造が複雑な分、部品に求められる精度が高くなる。それはコストが高まってしまうことと同義だ。そして、可動部分は部品の寿命が短くなる。同様の機構を持つF-14が維持費の高騰を理由に繰り上げ退役させられ、|F-18E/F《スーパーホーネット》に主力を譲ろうとしている原因でもあった。
E-04はそのあたり、バランスが取れているように見えた。機体を全体的にスケールダウンすることで軽量に、可動翼部は最小限に抑えている。なのに高い運動性と速度を誇れるのは、跳躍ユニット部の出力が優れているからだろう。

とはいっても、そのバランスを取るのが至難の業なのだ。ユウヤは機体の仕上がりから、大東亜連合にも優れた設計者が居るものだと感心していた。誰が見ても最新鋭の第三世代機だと認めざるをえない性能を持っているのだから。

(問題は、そんな最新鋭機を上回る速度で動いていた奴が居るってことだが)

空力制御と慣性制御の技術を高めれば可能なのかもしれない。長期間前線で戦い続け、技術を磨きに磨いた世界最高峰の衛士であれば、あるいは。だが、目の前の変態的機動を見せた男は自分よりも年下だった。それも機動力だけではない、射撃も近接格闘も相当に高度なものを習得していた。テロリストの機体、その両腕と両足を中刀で切断したのは他ならぬ白銀武だった。ユウヤは屈辱を感じながらも、認めざるを得なかった。正面から戦えば、まずもって勝ち目はない相手であると。

同時に疑念を抱いていた。日本という国内だけでは収まらない、世界レベルの衛士――――なのに名前と顔が一切売れていないはどういうことなのか。

(いや………マハディオって奴は知ってた。唯依もだ。亦菲も………いや、待てよ)

ユウヤはそこで大東亜連合の隊長機であるグエンの方を見た。
元クラッカー中隊だという男を。

(………葉大尉はあいつの腕を知ってるようだった。なのに動揺の欠片さえ見せないのはなんでだ?)

英雄中隊と呼ばれたからには、それなりの自負があるのだろう。だが、白銀武という男の技量は間違いなく葉大尉他、クラッカー中隊の誰よりも上に見える。なのに訝しがらず、協力の姿勢を崩さないのは何故なのだろうか。

深く考えれば考える程に疑問の種が増えていく。訝しむユウヤを他所に、実りのない尋問は終わり。


『――――データの吸い出しが完了した。これより転送を開始する』








ウーズレム・ザーナーは歯を食いしばっていた。ぎりぎりと、軋む程に強く。

『………国連警備部隊を掌握。壊滅状態とは手際がいいな。米国とソ連を相手にやるものだ』

すらすらと読み上げられる内容。それはどうしてか、正確極まるものだった。

『戦術機戦力を掌握し、少ない戦力での基地内の移動を円滑にする。数で劣るテロリストにとっては常道だが、博奕だな………目的は中央作戦司令室、通信センター、原子力発電所。目的を達成するための最低限の場所だけしか抑えられなかった』

数で劣り、練度でも劣る難民解放戦線はこれ以上ない奇襲で要所を攻略することしかできなかった。消失国家の情報混乱を利用し、警備部隊に潜入員を配置。人事担当を脅迫し、最低限必要となる人員を用意する。ソ連軍警備部隊は楽だった、被差別民族は、ウーズレムが思っていた以上の憎悪をロシア人に抱いていたからだ。

『米国には移民上がりの軍人を利用したか。同時襲撃が成功すれば、声明を出すという目的を邪魔するものは居ない………』

――――どうして。ウーズレムはそれだけを考えていた。

どうして、そこまで正確な情報を握っているのか。
ここまで情報が漏洩するなど、裏切り者が居る以外に考えられない。

ならば、どうして裏切ったのか。共に難民キャンプで、虐げられる現実の中で、辛酸をなめ尽くした者達同士で立ち上がると、そう誓ったのではないのか。

そして、どうして。

『どう、して………』

『答える必要性はどこにもないな。貴様達の手の内は明らかだ。これ以上の抵抗に意味はないぞ』

ウーズレムは叩きつけられた通告を前に、破けるほど強く唇を噛んでいた。

――――奪うばかりの人生だった。奪わなければ生きられなかった、そんな世界の中で育ってきた。弱肉強食の世界。喰うか喰われるかの、獣の道。
それはつまり、喰われても文句が言えない立場にあるということだ。

初めて人の命を奪ったことは忘れられない。
生きるために、食料を。人を殺して、食料を奪う必要があった。
真っ当なやり方では成功しない。自分の全てを利用しなければ、人の命には手が届かないのだ。母はそれを続けていた。間違っていると思ったこともあった。だが、自分たちを死なせないためには必要なことなのだと、置かれた境遇に思い知らされた。

喰う立場に回った、初めての夜。失敗し、残ったのは母だった肉の塊と仕損じた男の死体だった。泣いて吐いて、出てくるのも胃液だけだった。

間違っている。こんな世界は間違っている。ウーズレムは分かっていた。
私も、間違っていると。
何もかもが間違っているのだ。だから、修正したいと思った。
他ならぬ自分が動かなければ、世界は何も応えてはくれないのだから。
犯した罪は消えはしない。罪を償う機会は何か。
それに応えてくれたのは、指導者と呼ばれる人だけだった。
自殺は大罪だ。ならば、世界を変革させるための戦いに身を投じるべきだと。

なのに、どうして。
ウーズレムの視線は、自分の機体を落とした者に向けられた。
気づいた男は――――武は、通信に応じた。

『どうして、なんだ』

『………』

『どうして…………そんな、力があるのに』

人は的確に鍛えれば強くなれる。クリストファー少佐から訓練を受ける前と後では、雲泥の差だった。反吐が出るほどに厳しく、二度とやりたくないと思わされる程に身体を傷めつけられたが、それだけの甲斐はあったと思っている。

力を付けたという自負。それが一蹴されるのにようした時間は、訓練を受けた期間の何千分の一なのだろうか。開発衛士は自分たちの予想を遥かに越えた存在で、不知火に乗っている衛士はそれ以上の規格外だった。いとも容易くと言わんばかりに、守っていた情報を奪っていく。それなりの自負はあった自分たちよりも、はるかに優秀なのに。

『どうして、BETAを………故郷を…………逃げて、倒せずに…………っ!』

言葉は掠れて消え入るようだった。消えかけている蝋燭の灯火、それよりも弱い。
テロリストでもだる。それでも、此処に居るのは理不尽に泣いている少女だった。

――――どうして、BETAを。ハイヴを落として、故郷を奪い返してくれないのか。
難民キャンプという魔女の釜の底から救い出してくれないのか。

武は、ウーズレムの声ならぬ叫びを前に何も言い返せなかった。
そして、呼吸の音を聞いた。

すぅ、と深呼吸をする時の音。何時かの、タンガイルの時にも聞いた呼吸。
これが最後の呼吸だと、覚悟をした人間が吐く二酸化炭素の音が。

待て、と。武が声を発しようとした所に割り込んでくる声があった。

『これ以上迷惑を掛ける前に死ぬ、か………自殺は大罪じゃなかったのか』

マハディオの質問。それを前に、自分の蟀谷へ銃口を向けている少女は肩を震わせた。

『死んで逃げる、か。先に死んだお仲間に申し訳ないとは思わないのか?』

『何を、奪った貴様らがっ! 何も、何も知らない癖に………っ!』

『だから聞かせてくれって………無駄か』

網膜に投影された映像。マハディオはそれを見て、突撃砲の銃口を突きつけた。

36mmの砲弾が一発。人が一人死ぬのに、それは十分な威力を持っていた。








『………随分と勝手な真似をしてくれるものだ』

『主機を暴走させて自爆されるよりマシだと言って欲しいね。何より、彼女は自殺しようとしていた』

サンダークの言葉に、マハディオが反論した。
ユウヤはあわや戦闘再開か、と緊張したが、そこに別方向からの言葉が割り込んだ。

『サンダーク中尉。先ほどの情報の精度は………いえ、彼女が自殺しようとした所を見るに』

『貴官の予想はあっているだろう、篁中尉。私の見解は間違ってはいなかったようだ。素人にしてやられたという事実を認識させられるが』

鎌をかけて、それが上手くはまったのか。
ユウヤはサンダークの言葉と、相手の状況を見抜く眼力に驚いていた。
だが、腑に落ちない所があるのも事実だった。

『………よく言うぜ』

『司令部ビルから脱出してきたのだ。それなりの推測はできる。それよりも、警備部隊が掌握されている事が問題だ』

『3個大隊108機が相手、か。せめて残弾と推進剤が残っていればね』

やりようはあったと、タリサが歯噛みしている時だった。
突然、警報が鳴ったのは。

内容は、コード991。
BETAの襲来を知らせる、衛士にとっては最も忌まわしい警報だった。

『これ、VGとステラが………?』

フェアバンクス基地に向かっている二人がBETAと遭遇したのだろう。コード991は最優先コード。自動発信されたそれが、テロリストを含めた戦術機に中継されたのだ。

この警報で、ユウヤ達が認識した事態が3つ。

ある程度の情報は米軍にも伝わっているだろうが、その爆撃部隊があてにならないこと。ヴァレリオとステラが健在であること。
そして、高度を取っての高機動戦闘が出来なくなったことだ。

『問題は………BETAの数、だな』

『タケル?』

『いや、何でもない………っと、無事だったようだな』


武は近づいてくる機体の反応を見て、ひとまず溜息をついた。
そこに玉玲含む、味方である戦術機が到着するのは1分と少し後だった。

不知火に、不知火弐型が2機、武御雷が1機。
殲撃10型が4機、トーネードADVが4機、F-15ACTVが1機。
集まった衛士達は、まず情報を共有することを優先した。

『BETAだが、そう脅威にはならないと思うぜ。研究用に捉えられていた素体だ、レーザーもそうポンポン撃ってくることはないと思う』

『同感だ。それに、BETAの習性を考えればな』

『向かう先はハイヴ、だろ?』

BETAにも燃料らしき概念があるらしく、それが乏しくなった時に向かう先がハイヴであることはユウヤも知っていた。研究所があるらしい地点から、一番近いハイヴと言えばエヴェンスク・ハイヴだ。現在の位置から東に、ユーコン基地を通過してベーリング海峡を通るルートとなる。

『そういや、北米から東に“逃げていくBETA”を迎え撃つことになるんだよな』

『それも米軍じゃないアタシ達が。こうした事態じゃなきゃできない貴重な体験だねクソッタレ』

テロリストとBETA研究施設という喜ばしくないものが重ならなければ、まず起こらなかった事態である。リーサは皮肉を飛ばしつつ、毒づいた。

『これ、リルフォートが』

『止めなきゃ街ごとミンチだね。とはいえ、テロリストは退かないだろ』

『その通りだな………くそっ!』

ユウヤは怒りに叫びそうになった。米軍も、テロリストを相手に妥協案は取らない。
最悪、リルフォートを見殺しにしてでも米軍の正義を通すだろう。
どうしてこんな時代に、それもBETAが目前に居るというのに人間同士が敵対しあう羽目になっているのか。行き当たりの無い声に、答える者は居なかった。

ただ、目的のために。必要なためにと、最初に発言をしたのはアルフレードだった。

『ともあれ、だ。司令部ビルと通信センターの奪還は必須だな。作戦行動がやり難くってしょうがないな、リーサよ』

『難民解放戦線が民間人を害さないために応戦するって可能性は………無いか。ソ連の中尉殿よ、その辺りはどう見る?』

真剣な口調で問われたサンダークは、一瞬だけ言葉をつまらせるも、平時の通りに自分の意見を口に出した。

『BETA研究施設の位置を把握していた彼らが、この事態を想定していない筈がない。ならば、楽観論は捨てるべきだ。犠牲者が出たとして、その責任の在処を別の所に押し付ける可能性は高い』

犠牲者が出たのは交渉に応じなかった米軍かソ連に在ると言い張るかもしれない。あるいは、空爆部隊を派遣したことを責める声明を出している最中かもしれないのだ。
何よりここで問題となるのは、事の真偽ではない。
犠牲者も致し方なしとテロリストが考えている時点だ。もしその推測が正しいとなれば、歓楽街に居る大勢の人が死ぬことになる。その後の事を考えると、絶対に止めるべき事態だった。

『………実の所、連中が警戒しているのは米軍ではないのかもしれない』

『それはどういう………いや、そうか』

空爆を封殺できるのは、BETA研究施設を急襲する作戦を立てた時点で分かっていることだった。航空戦力は光線級で無効化できる。ならば、次に問題となるのは戦術機甲部隊の派遣だ。だが、光線級を相手にするとなると低空飛行でも慎重にならざるをえない。
ならば、テロリストにとって最も驚異的かつ排除すべき存在は近場に居る戦力ということになる。

『話が早いのは助かるな』

『呉越同舟ってこと。それよりも、優先すべきは』

『司令部の急襲だろうな。敵は寡兵で素人。正規部隊となる陸戦部隊の数を揃えた上での力押しが最も有効な戦術だ』

『だから指令塔と声を遮断したのか』

アーサーはいちいち理に適っていると舌打ちをした。監督、そしてチームメートと会話する声を潰せば戦術的な行動は取れない。

『………ただのテロリストが考えることじゃねえな。ユーコン基地の陸戦部隊に手を付けられてる可能性もあるけど、どうなんだ?』

『警護歩兵部隊にまで手が及んでいる可能性は低い。彼らと連絡を取り、共同で作戦を展開すべきだろう。敵の戦術機甲部隊に関しては、私達で対処すべきだが………』

サンダークの言葉に、アルフレードとユーリンが頷いた。

『ごもっとも。戦力的には、やれない事もないが………テロリストとBETA相手の二正面作戦はな。どう思う、篁中尉』

『テロリストだけならばまだしも、その後は………どう計算しても推進剤が足りません。まずは補給を優先するべきです』

弾薬以上に推進剤の補給は必須だ。だが、推進剤貯蔵庫や実験部隊の野外格納庫といった心あたりがある場所はここより司令部に近い。

ならば、どうするべきか。皆が黙っている中で、ユウヤは一人で考え込んでいた。





唯依を混じえての話の中、次々に方針が決まっていく。ユウヤはその姿に少しばかりのあこがれを抱いていた。サンダークを含め、ベテランの衛士達は敵の情報から目的と対処方法を割り出していった。それも、少しの時間もかかっていないにだ。的確な状況判断と妥当な戦術としか言いようのない正確さで、敵の目的と裏にある弱点を暴きだしていく。

これが、歴戦の衛士か。ユウヤは気後れしそうになるが、それでも自分のすべき事に意識を集中させていた。敵味方の戦力が把握できていない以上、仕掛けるのには賭けの要素が入り込んでくることは避けられない。ベテランの衛士達は、ならばと状況に応じての要所要所の代替案を織り込んでいった。

ソ連が嫌いだと言った女も、米国が嫌いだと言った連中も、関係なく作戦行動に意識を集中させていく。

(大筋は唯依達が決める………なら、俺は一点に集中すべきだ)

最優先事項は、弾薬と推進剤を補給すること。この面子なら、それさえあればどうにかなる。ユウヤは多少強引な手を使ってでも、と確実に補給資源がある場所を脳内でリストアップしていった。宇宙往還機の発着場は爆破されている。野外の格納庫も、備蓄がいくらあるかは把握できていない。スカを喰らえば、それだけ時間的余裕は失うし、推進剤が不足してしまう危険性がある。

(敵も、それは分かっている筈だ………自分たちの補給も必要だろうしな)

各国の実験小隊の野外格納庫を破壊して回っていると聞いた。
敵の兵站を崩し、自軍は保つのが軍略の基本であるからして妥当な戦術だと言える。
だが、ならば。多少危険があっても、確実に補給ができる場所は。

ユウヤは思いつくと、補給先を話し合っている場に意見を放り込んだ。


『――――警備戦術機部隊の格納庫だ。あそこなら、兵装と推進剤はある』


“敵が使う予定のもの”を強引に力でかっさらう。ユウヤの提案に、唯依はハッとなって頷いた。

『そうか………敵は我々を“取り零し”だと捉えている可能性が高い』

『希望論だけどな。でも………本腰を入れていないってのが気にかかる。俺らを相手に散発的に戦力を向けてくるのは、こっちの戦力がどうにでもなるって考えてるからじゃねーのか? それに、灯台下暗しって言うしな』

加えて言えば、素人である以上は弾薬や推進剤が切れるのを極端に恐れる筈だ。
無駄弾を撃つことは訓練の時点で自覚しているだろうし、推進剤の計算も開発衛士のそれと比べれば稚拙であろう。不安要素が大きいのであれば、保険は残して置きたいと考えるのが人間というものだ。

『罠の可能性もあるが………物資が確実にある、って意見には賛成だ。やるじゃねーか日系人』

『ユウヤだ。それに、罠があろうとも食い破れるだろう? そこの変態的機動をしてる奴を筆頭に』

『はっ、そりゃそうだ』

一本取られた、と言いたげに笑う。ユウヤはその反応に何かを言いたくなったが、途端に横から声が入り込んだ。

『ショウギと同じだな。敵の有効な駒をこちらの戦力に。あのブルってたボウヤが、大した馬鹿になったものだ』

『………言ってろ』

アルフレードから、気安く、まるで長年の戦友のように。
ユウヤはこちらに親指を立ててくる数人から顔を逸しながら言い捨てた。

『敵の懐に潜り込んで、全部奪う―――――まさかできねーとは言わせねえぜ、英雄中隊さんよ』


『上等だ』


イージーオペレーションにも程がある。

そう言いたげな口調と獰猛な笑顔を前に、ユウヤも負けじと挑戦的な笑みを返していた。


『――――移動をしましょう。ブリッジス、マナンダル少尉は兵装を確認しろ』

『こっちもだ。戦って奪うぐらいの気構えで準備を』

『前には俺とリーサが受け持つ。アルフとクリスは後ろから…………ん、通信?』


気づいたアーサーが、訝しげに通信に耳を傾ける。

発信元は難民解放戦線と思われ、その出だしは“米国大統領とソ連書記長の間で直接交信された内容”という如何にも厄介事だと理解させられるものだった。


『芝居がかった口調ね………でも、逼迫してるような?』

『………聞いてからでも遅くはない。全機、周囲警戒を維持しながら準備を』

嫌な予感がする。そう呟いた唯依の言葉は、正しかった。


――――レッド・シフト。通信の内容は、その一言で集約されるものだった。


それは、未来を見据えての米国の国防対策。

“ベーリング海峡を越えたBETAがアラスカの一定ラインに到達した場合”という限定条件を達した時に発動するものだった。効果は、地中深くに仕掛けた水爆の一斉爆破を以ってBETAを殲滅するだけではない。同時に、アラスカの大地に人口の新たな海峡を創りだそうというのだ。

『数千の水爆の一斉爆破なら、可能かもしれないが………』

『………ヨーロッパじゃできねー真似だな。米国ならではだぜ』

歴史が浅いゆえ、国土への愛着は浅い。そう言われても反論できないだろうそれは、何処にいるのかも分からない神を冒涜しきる行為だった。

『それも本来の目的とは違う、北米からエヴェンスクに向かう道中で起こるってか? 皮肉を重ねるにも程があるだろ』

リーサの呟きに、ユウヤさえも同意した。
そして、ぽつりと言葉を零す者が居た。

『………下手しなくても、太平洋全域に影響が出るよな。特にべーリング海峡を越えてすぐにあるソ連領は』

『海に影響が…………っ、まさか!?』

『1960年、チリ地震。ちっ………何考えてやがるんだ、ほんと。ハワイ諸島も無傷じゃなかったろうによ』

なにせ17000kmも向こうにある日本も相当な被害を受けたのだ。レッド・シフトが、数千の水爆の一斉爆破が、周辺環境や太平洋沿岸の国々にどういった影響を及ぼすのかは未知数だ。だが、どんな影響が出るのかも分からないぐらいに規格外の災厄になることは、間違いがなかった。特に今の疲弊した日本で津波災害など、取り返しのつかない事態になりかねない。食料プラントの多くは沿岸部にあるのだ。食料自給を絶たれた時点で、日本が対処できる事態は挽回不能なまでに制限されてしまう。

(そして――――BETAの数は未知数。いや、ほぼ間違いなく“あっちの世界”の時より多いと見るべきだ)

武はあちらの世界に居た時に、聞かされた事があった。バタフライ・エフェクト。香月夕呼は不安を煽る口調で、イレギュラーが起こす事象の多種多様さを語ってくれた。

確証はない。だが、万が一に“シルヴィオ・オルランディと共に壊滅させたβブリッド施設”の影響が出ていたとしたら。


それが武の危惧することで、ユーコン基地に来た目的の一つだった。

武はそうして、深呼吸と共に告げた。


『止めてやる、絶対にだ』


その先に訪れるバビロン災害を見据えて。

陽が沈もうとしている空の下、静かな決意が篭められた声に、その場に居る全員が同意を示していた。



落ちる空

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