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マブラヴ13話・前編を更新

なんかまた予想外に文字数が多くなりました………でもカットするのもあれなのでそのまま更新。

割りと展開というか話が進んでいませんが、実戦後の各々の感想ってことで一つよろ。

間話的なものだと思って下さい。




13話・前編 : 整理 ~ Restart ~

青空・雲






2001年8月28日

ユウヤ・ブリッジスはMISP強化モジュールを纏っているXFJ-01a――――セカンド・フェイズに進化した不知火・弐型を見上げていた。
白い塗装に、赤いアクセント。青空の下に立つ巨人は、その場にいる者を魅了してやまなかった。
ユウヤは機体を説明するボーニングのCEOの声を聞き流しながら、日光を反射する不知火・弐型に目を奪われていた。

「どうだ、ユウヤ。生まれ変わった相棒機のお披露目式は」

「ああ………見事だ。美しい機体だと思うぜ、ヴィンセント」

ヴィンセントはその言葉を聞いて驚いた。
まさか、ユウヤの口から日本機を褒めるような言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
何か心境の変化でもあったのか、とからかうつもりで声をかけようとするが、そこで止まった。

「………ラトロワ中佐のこと、まだ納得していないのか」

「ガキだってのは分かってるんだけどな。色々と、教えられた相手だ」

分を弁えろという言葉。ユウヤはそれが単なる悪意から発せられたものではなく、善意からくる忠告に近いものだと感じていた。
ようやく理解したのだ。光線級吶喊を行ったジャール大隊は多大なる戦果を上げたものの、帰還機なしの生還者無し――――全滅という報を受けた後に。
その報告を聞いた自分以外の実戦経験者が、大した驚きを見せなかったことに。

(俺たち開発衛士も前線の衛士と同じく命を張っている、か………結局の所、俺は心の底から理解しちゃいなかった)

ラトロワ中佐達は死んだ。少年兵達も死んだ。戦場を知る者にとって、それは日常的なものだったのだ。
米国陸軍の開発部隊に居た時とは、ここユーコンで不知火・弐型と向かい合っていた時とは、圧倒的に違う。
まかり間違えれば死ぬのではなくて、戦況が少しでも傾けば、当たり前のように死ぬ。それが真実だった。

だが、その犠牲があったからこそBETAの侵攻は止められた。開発部隊の損害もゼロで済んだのだ。
命令と義務に従った最前線の衛士達。ジャール大隊が居なければ、この程度では済まなかった。

(それに比べて俺はどうだ? あの場所で、何が出来た。何を残せた)

即答できる成果はなかった。

道を選ぶことも知らず、生まれて間もない頃から戦うことを強いられていたジャール大隊の少年兵達は義務を全うした。
自国の被害を減らした。

対して、自分の道で軍に入ったユウヤ・ブリッジスはどうか。
ユウヤは撤退する直前に問われた言葉を思い出していた。守りたいのか、見捨てたくないのか。
答えられる言葉は、見つかっていなかった。だが、見えるものがあった。

機体のアナウンスをしている者も言っている。

――――かつての第二次大戦では祖国の誇りと存亡をかけて戦った2つの国、日本と米国。
今は異星から来た共通の脅威を倒すために共闘している。

"XFJ-01a"と書かれている旗を中心にして、左右に両国の国旗が飾られているように。
一つの計画を繋ぐ糸として、"今は"協力態勢にあるのだ。

(後ろ向きになりすぎるのは………やめだ。弱音を吐くなんて甘ったれた真似はしない。建前だの本音だの、関係ない。俺は…………俺にできることをやる)

実戦を知った自分は、機体のどの部分をどう改良すればいいのか、それが高いレベルで分かる。
経験は無駄になっていない。ジャール大隊の助力の上で得たものは、ここにまだ生きている。

(だから――――戦う。強くなる。機体を、強くする)

それこそが、ラトロワ中佐達に示している敬意の証明となる。強い機体はBETAを倒し、何かを助けるのだ。

―――誰かを護るために散った、あの英雄たちの戦友であったと胸を張って言えるようになる。
言葉だけじゃない、実感を伴って言うのだ――――命を賭けると。

少し離れた場所で同じように機体を見上げている唯依と同じように。

ユウヤは、静かに決意の火を燃やしていた。












2001年9月1日。殲撃10型を整備する部隊の主任と呼ばれている男は、ハンガーの中で大きな溜息を吐いていた。

「ほんっとにいきなりでしたね………時に体調は大丈夫ですかい、大尉殿」

「問題はない。3時間は眠れたから」

そう言って親指を立てて答えたのは、葉玉玲だ。
声に虚偽報告の色はない。目の下の隈がなければ、説得力に溢れる回答だっただろう。

「あー、信用しても良いわよ班長。なんだかんだ言って慣れてるらしいから」

「そうですかい………全く、どこのバカがこんな糞ったれなお祭り騒ぎを許可したのやら」

「全くね。ブルー・フラッグだかなんだか知らないけど、茶番もいいところだわ」

亦菲は同意しながら機体を見上げた。対人の模擬戦を持って開発中の機体の相互評価を見ようというプログラム。
それはいつしか、ブルーフラッグという名で呼ばれるようになっていた。

「始まったものは仕方がない。考えるべきはユーコン基地上層部に対しての呪いの言葉じゃなくて」

「この演習で何が得られるかって、そういう事ね。まあ、面白くないかって言われればそうでもないし………ああ、あんた達に余計な手間がかかるような真似はしないわよ」

亦菲の言葉は整備主任に向けてのものだった。
対する主任は、無精髭のある顎をぽりぽりと掻き、笑いながら言った。

「期待しておきますよ。|暴風《バオフェン》の名前の通りに、ライバル達を吹き飛ばしてやってください」

「――――了解」

「任せときなさい。バオフェン小隊、出るぞ!」



模擬戦の幕が上がったのは間もなくしてのことだった。相手はアフリカ連合のドゥーマ小隊。
亦菲は遠距離からちまちまと砲撃をしてくる相手を前に、苛立たしげな声を零していた。

『分かってないわねぇ………この程度でアタシ達に勝てるとでも思ってるのかしら。学習機能が無い下等生物ならまだしも―――――』

これは対BETAの戦闘ではない。それどころか、本気の対人戦でもない。
誘導弾も支援砲撃も飛び交わない戦場などあり得ない。
想定されているのは、戦術機を歩兵に見立てた上での市街戦か。現実では起こりえない、ごっこ遊びと誹られても反論できない演習である。

『でもまあ、嫌いじゃないけどね――――葉隊長、やれる?』

『言われるまでもない。援護は任されたから――――存分にやるといい』

ユーリンは冷静に判断していた。ドゥーマ小隊はカムチャツカの時とは面子が違っている。
新しく派遣された衛士達はそれなりに知られている腕利き揃いなのだろう。この数分でまだ一機も撃破できていないのだから。
その程度である、という証拠でもある。亦菲は笑った。対峙していて嫌な汗が出る程じゃない、全身を揺らされるような重圧も感じない。

『ふん、遠くからタマ撃つだけの臆病者。腰抜けだから、前線であんな無様を晒す』

亦菲は陽動に出た李の機体を見送りながらニヤリと笑った。
陽動に引っかからない相手、だがそれは消極的なヘタレである証明となる。


『お遊びでやってるんじゃないわよ――――バオフェン3、アタシに続け!』


操縦桿が力いっぱい握られて。全開になった跳躍ユニットを推進力に、副隊長機であるバオフェン2は低空にある大気を蹂躙した。













広いブリーフィングルームの中、作戦説明に使われているスクリーンに映さる模擬戦。
JIVESの空間の中で戦う様子を見ていた開発衛士達は、各々に感想を抱いていた。

「おいおい、そこで高機動戦闘を選択するのかよ………って当たらねえ!?」

「ああ左右に振られちゃあな、ってやりやがった!」

スクリーンには、爆炎を背後にして尚止まらない。愚直に機動戦を挑んでいる統一中華戦線の機体が映っていた。

仮想を演出させられている中での戦闘とはいえ、ダミービルは実体だ。
激突すれば死ぬ可能性もある中で、ブースター出力を上げながら閉所を駆け回る命知らずな機体がいる。
それを見た幾人かは、顔を顰めていた。
ここまで鍛え上げてきた機体を模擬戦などで潰すつもりか、蛮勇から来る無謀な行動は戦術とは呼べないといった侮蔑の感情から来るものである。

対してアルゴス小隊のヴァレリオ・ジアコーザは笑いそうになっていた。
その衛士のあまりの頭の可笑しさというか無謀さに笑いがこみ上げてきそうになっていたのだ。
だが、次に入ってきた映像を前に口を噤まざるをえなくなった。

「一機、いや二機いっぺんにかよ!」

「あそこから当てて…………っ?!」

暴風そのものであるかのような前衛。それに気を取られたドゥーマの二機を、遠方より放たれた2撃が捉えた。
1機はコックピットに、もう1機は腕部に。そして片腕を破壊された機体はこのまま遠距離での撃ち合いをしても勝ち目がないと判断したのか、ビルの影に隠れながらも距離を詰めていった。
対する玉玲――――バオフェン1も、迎え撃つかのようにビルの隙間を移動する。

相まみえたのは、20秒後。仕掛けたのは、手負いのドゥーマの方だった。
互いの位置関係を把握した上での、死角を利用した短刀による奇襲。
機体の損傷を感じさせない、流れるように繰り出された一撃はそれを放った衛士の練度の高さを思わせるが、結果には結びつかなかった。

両機が、すれ違うように交差する。直後に爆炎を上げたのは、ドゥーマ機の方だった。

「………すれ違いざまに、やってくれるぜ。冷静な観察が得意なステラサマはどう見る?」

「機体性能の恩恵もあるわね………ここにきて、だいぶ詰めてきたようだわ、だけど」

「ああ、よく動く。でも………F-16の系譜だから、ってことじゃないよな」

ヴァレリオの質問に答えたステラとユウヤの意見は一致していた。
F-16は他の戦術機より小さく運動性が高いことで知られているが、先の交戦における勝敗は機体の性能差から来るものではなかった。
いくら小さいとはいえ、当たる時は当たるのだ。そうならなかったのは、衛士の技量によるものだ。

「小さい奴はチョロチョロすんのが武器だからな。その点、チョビ殿はどう見るよ。いや、ここはチョロって言っておくべきか?」

「喧嘩売ってんのかよVG………今なら10倍でも喜んで買っとくぜ?」

いきなり沸点に達したタリサ。それを見たユウヤは、以外に思っていた。
いつもなら流す所を、割りと本気目に返している。まだじゃれあいの範疇だが、ユウヤはタリサの様子がいつもと違うように感じていた。

(まあ、近接機動格闘戦を得意としている身じゃあな。猪のバオフェン2と、近距離での切り返しをしたバオフェン1を見てたら穏やかじゃ居られないか)

自分も大きな口じゃ言えないが。ユウヤは自嘲しながらも、ふとある事に気がついていた。
同じことに気づいたステラが、タリサに尋ねた。

「タリサは、あちらの大尉殿とは知り合いじゃないのかしら」

「知り合いの知り合い、程度かな。数回程度しか話をしたことはないよ。でも、ターラー中佐から話は聞いてる」

「へえ、鬼の鉄拳中佐殿からの言葉か………で、どんなもんなんだ?」

「総合力で言えば隊でも屈指だった、って。センスで言えば上から二番目か、三番目で………・あれだけ死角が無い衛士も珍しいって言ってた」

「………納得ね。最初の砲撃も、相手の隙を迅速についた見事なものだったわ」

後衛が本職だと言われても納得してしまいそうな程の。その上で先ほどの近接戦での腕前である。

「近接ならあっちのバオフェン2の方が上みたいだけどな………並じゃねえぞ、あれ」

ヴァレリオの言葉にユウヤが同意する。

空力と重心移動に関しては、タリサと同等か少し下程度。
だがユウヤの目には電磁伸縮炭素帯の連結張力の使い方に関しては、あちらの方が上に見えていた。

(まったく、化物揃いだぜ………)

そうしてユウヤは、もう一方での化物――――優勝候補と言われている部隊、欧州連合のガルム小隊の方を見た。

「………って、おい」

ベテランらしく、余裕のある風情で映像を見ている。ユウヤはそう想像していたのだが、現実は違った。
5人居たが、その中の2人が船を漕いでいた。背丈が小さい男と、ウェーブがかった髪を持つ北欧の女は腕を組んだままこっくりこっくりと、夢の中の住人になっていた。

直後、視線に気づいた他の3人が大きな溜息をついた。
そして背丈の大きい男は小さい男の顔面に水平チョップを繰り出し、アルフレードと名乗っていたイタリア人は北欧女の頭に拳骨を落としていた。

「なあ、おい…………シロー」

「なんだよ、ユウヤ。もしかして前の話の続きか?」

「違う。それより………いや、なんでもない」

ユウヤはそれきり黙り込んだ。2人の間を微妙な空気が漂う。
原因はカムチャツカでの最後の戦い、その顛末に関するものだった。












「全滅って………・どういう事だよ」

「それは――――いや、すまない。これだけしか言えない」

「っ、責めてるんじゃねえ! 何があったって聞いて……………っ」

そこでユウヤは黙り込んだ。さっさと撤退した自分が何を言えるのか。
そう自覚したからだ。

「………死んだのか」

「ああ、死んだ」

「そうか――――勇敢、だったのか? いや、聞くまでもないな」

最後がどうであれ、結果はもう出ている。
予想だにされていなかった光線種の登場、それによる危機はもう脱した。
今わの際を問うことに、大した意味はない。人類の刃として戦う衛士、その責務に準じた戦果が全てを物語っているのだから。

「すまん。そっちは篁中尉を守りきったのにな」

「唯依は………それこそ、俺が言うようなことじゃねーよ」












ユウヤはその時のやりとりを反芻して、溜息をついた。

(分かってる。そうだよな………こいつも、あのガルムやバオフェンの手練達も、一緒に戦っている友軍を一方的に見捨てるほど薄情な奴らじゃない)

何もしないまま立ち去ったということはない。ユウヤも、それは分かっていた。
戻ってきた小碓四郎の機体が全てを物語っていた。ユーコンに帰還してから一週間が経過したというのに、未だに小碓四郎の不知火は整備中だというのだから。

だがユウヤ・ブリッジスが言った頼むという言葉に、小碓四郎は任せろ答えたのだ。
頼れ、と言った。一緒に戦っていた3機も、援護に入ったという。

だが、結果はどうだったのか。それに対して責める資格は自分にはない。無力だったのは自分が何を言えるというのか。
ユウヤはそう自覚しつつも、もやっとした感情が湧き出るのを止められなかった。

「そ、それよりヴィンセント! 不知火・弐型の調整はいつ終わるんだよっ!」

「あ、ああハイネマンのおっさんは完璧主義だからな。4、5日はかかると思うから、その間はシミュレーターで我慢しといてくれ」

場の空気を変えるように言葉を発したのはタリサとヴィンセントだった。
だが、その回答にタリサは不満な声をあげていた。そんなにかかっては、ブルーフラッグの勝敗に影響が出てくると思ってのことだ。

「へっ、"対人戦なんて~"とかさんざんブーたれておきながらやる気じゃねえか。衛士のプライドが騒ぐ、ってやつか?」

「そんな所だ。男は順位をつけるのが好きな生き物だからな。ユウヤもそう思うだろ?」

「ああ………まあ、な」

ユウヤは陸軍に居た頃を思い出し、答えた。あの時は認められたいという思いで一杯だった。
認められるには一番でなくては意味がないと、休暇を返上してまで訓練に励んでいたのだ。

「しかし、急過ぎるだろ。相互評価が決まったのは、ソ連から戻ってきて一週間後だぞ」

「正確には八日後、今から言うと二日前だけどな。決まったのは、ハルトウィック大佐が今回の遠征を高く評価してのことらしいが」

先進戦術機技術開発計画、通称プロミネンス計画。
それは各国が情報交換をしたり技術交換を行い、刺激しあった挙句により良い戦術機を開発していこうというのがお題目だ。
それにはソ連も含まれている。ジャール大隊もそうだが、ソ連軍は相応の損耗を強いられた。
なのにその責任者とも言われるハルトウィック大佐が、どうして今回の遠征を評価するというのか。

「………もう帰ってこない衛士がいるのに、という顔ね。ユウヤ、貴方のその気持ちは分かるわ。でも、失ってばかりでもいられないのよ」

「そうだ。アタシ達の目的は忘れちゃいないだろ? 全部が全部上手くいったなんて口が裂けても言えないけど、得られたものは活用しなくちゃね」

「………分かってるよ。死んでいった衛士達のためにも、だろ?」

「ああ。っつーかなンだ、フォローするまでもなかったか」

「いや、有り難いよ………・ってなんだお前ら、その反応は」

ユウヤは驚いた表情をするタリサ達を見て、不満気な表情を浮かべていた。
誤魔化すようにして、ヴァレリオが咳をした。

「で、いきなり対人の総当り戦が始まった理由はしってるか?」

「ああ。イーダルとガルムのスコアのせいだろ」

ユウヤは自分なりの考察は済ませていた。
カムチャツカの実戦運用試験においての結果が関連しているのだ。
イーダルのSu-37は第二世代の改修機で、ガルムのトーネードADVは第一世代の改修機。
その両方が第三世代機のスコアを総合的に上回ったのが原因だと考えていた。

「衛士の腕の差かもしれない、って意見も出てるけどな。でも、実際の所は分からねえだろ?」

「だから直接勝負して白黒つければ分かりやすい、ってか。もし改修機が第三世代機より有用だってのが分かれば、計画の今後の方向性にも影響してくるだろうしな」

人類は鉄屑に金と時間を浪費できるほど、余裕がある訳ではない。新兵器にありがちな、"こういう事態は想定の外だった"というのは自死を誘発する所業だ。
プロミネンス計画はそれを防ぐためのものでもある。他国の技術交流ということで開発における死角を減らし、実戦において有用となる機体を作りあげる。
それも低コストであれば、なお文句はないという。

「第三世代機の配備数を考えるとね。現在配備されている第一世代機や第二世代機を改修した方が効率良く戦力を増強できるのではないか。大佐は、その答えが欲しいのよ」

「次世代の機体を開発しよう、って息巻いてる奴らからしたら余計なお世話だろうけどな。でもまあ、根幹にそういった志向があるこの計画なら、そこは無視できないポイントだ」

「いわば代理戦争、ってやつか………裏に金の匂いがするねぇ~」

「戦術機ってのはそういうもんだろ、ヴィンセント。大佐としちゃあ難しい判断だったろうけどな」

「まあ、負けた方は恨みが残るよな。しかし、第二世代機か………イーダルやガルムが優勝した場合は、第二世代機の改修機が。それも自国の技術者の優秀さをアピールできるってことになるのか」

「ああ。ソ連としても今回の被害は予想外だったろうけど、いい意趣返しになるんじゃねえの?」

これはSu-37の過去の話も混じった上でのことだ。ソ連はSu-37を第三世代機だと主張しているが、西側は2.5世代機と認定している。
第三世代機未満という判子を押された機体が、欧州を含む各国の第三世代機を圧倒する。
それは西側の見解が間違ったものであると証明するか、あるいは欧州の第三世代機はソ連の2.5世代機以下であるという認識を世界に持たせることになる。

「それでもさぁ~………対BETAじゃなくて対人戦でそれを証明するなんておかしいと思うけど」

「そうだよなぁ。一番大事な所で方向性が違ってるってのもマヌケな話だよな。銃後に居るお偉方にとっちゃ、良い話題作りになるかもしんねーけど」

分かりやすい結果としてアピールできる、という部分もある。最も、BETAに国土を呑まれた欧州各国やアジア諸国が米国やアフリカ連合と同じ意見を持っているとも限らないが。
そこに、声を挟んだ者が居た。

「………"BETA大戦後に到来する兵器"。それが戦術機じゃないから………こうした勝負をできると、考えているんだろうけどな」

「そうね。シローの言い分も、一理あるわ」

答えたのはステラだった。BETA大戦が終わるとして、その後に予想されるのは国土が極端に減っている国の、人類同士の戦争だ
生存圏を主張するための武力行使。その時に有用なのは、戦術機ではない。

戦術機は対BETA用に開発された兵器であり、戦車や航空機を相手にするような思想で設計されている訳ではない。
その配備数から大戦直後にはそれなりに活躍するだろうが、航空機が出張るようになった場合、戦術機の時代は終わりを告げるのだ。
だが戦争初期における戦果の違いは、後の時代の趨勢を決定付ける要因にもなりうる。
現在、各国は互いの戦術機の性能について詳しく調べている余裕はない。だが、この場を利用すればそれが可能となる。

「支援砲撃や誘導兵器なし、って条件もな。分かりやすーいように交戦規定をいじくった結果ってことだ」

「大佐がそれを承認したのはスポンサーの意見だから、かしらね? 各国家や軍需産業………逆らうにもリスクが高すぎる相手だから」

「………だからこんな余興を、か」

――――馬鹿みてぇだな。ユウヤは内心でそう吐き捨てた。
安全な場所から訪れてもいない戦後を考えて、あれこれ口だけを出す。政争に、金稼ぎだけに注視する。

(誰が死んだか、なんて見てねえんじゃねえのか? 興味も無さそうだよな………)

いい服を、良い食料を。ジャールの少年兵士とは違いすぎる。
ユウヤは、納得のいかない気持ちを抱いていた。

それに、と。その内心を言葉にした言葉が、響いた。

「BETA大戦後、か」

ハッ、と嗤う。それは、唾を吐くような声だった。

「――――まるで地球にしかBETAが居ないような物言いだよな」

宇宙は広くて、地球と月と火星だけにあいつらが居るって証拠もないのに。
その声は嫌な説得力をもっていて、聞いていたアルゴス小隊と周囲にいた複数人が知らず息を呑んだ。

「………というのは冗談であって」

「ああ………いや、まあそういう可能性もあるんだろうけどよ。それより、ユウヤよ」

ヴァレリオは話題を変えるようにしてユウヤに言った。

「唯依姫がこっちをあつ~い視線で見てるんだけどよ。何か心当たりあるか」

正確にはユウヤと小碓四郎の両方だ。スクリーンの脇の位置から、ちらちらと2人の方を見ている。
本人はバレていないと思っているかもしれないが、傍目から見てもバレバレだった。
そこでヴァレリオは、面白くなりそうな方が良いとユウヤに話を振った。

「いつの間にか呼び捨てる仲になってるしよ。怪しいとは思ってたんだが………もしかしてやっちまったか? 日米の溝をナニで解決しちまったか?」

「はあっ?! てめ、ナニって、やっちまったって何がだよ!」

「おいおい、今更惚けるようなトシでもないだろ? 男と女でナニっていやひとつしかないだろ。そのあたりどう思うかね、ローウェル軍曹」

「はっ、ヴァレリオ少尉殿。あの篁中尉のちょっと赤くなっている顔を見るに、その可能性は大であります」

「ば………っ、ちげーよ! 俺と唯依はそんなんじゃぁ―――――」

唯依、とはっきり言ったユウヤ。
それを聞いたヴァレリオとヴィンセントのコンビは、にまりという笑みを見せた。

「………はっきりと言いましたわよね、ミスタ・ジアコーザ」

「それはもう、ばっちりとですわよミスタ・ローウェル」

息のあった2人のやり取り。まるで噂好きの奥様のような口調になったコンビは、同時に手をメガホンのような形にして自分の口に当てた。


「オ~イ、みんな聞いてくれよ! こいつ篁中尉ととうとう………くっ、これ以上は俺の口からはっっっ!!」

「なんていうの、視線だけで分かり合えるっていうのか?! 野郎が顔赤らめてるし、マジキメエなおいっっっ!!」


瞬間、空間が静止した。

数秒が経過する。気づけば、スクリーンの脇に居る唯依の顔は虚を疲れたものに、そしてより一層のこと頬にある赤色が濃くなっていた。

「っておいマジかユウヤっ!? き、聞いてねえぞ俺はッ!!」

ヤクザ顔とあの人に刃傷沙汰にっ、とか逼迫した顔で言うのは小碓四郎――――白銀武だった。
これじゃ約束が、と慌ててユウヤの服を掴んで振り回した。

「おっ、ここでライバル参戦! 同じ日本人として物申すのか! 三角関係なのかっっ!」

「よっし、良い居酒屋知ってるしいっちょ決めてこい。あ、泥沼になって後々に悪影響残すのは無しな」

「って何の話だよっ!」

ユウヤが突っ込む、それと同時だった。ステラとタリサが立ち上がるや否や、2人の顎に狙いを定めて――――


「場所を選べ阿呆野郎ども――――っっっ!」

「下品で許容量オーバー…………退場よ2人とも」


拳と蹴り。まとめて顎をかちあげられた2人は、脳を揺らされその場に突っ伏した。





そして、バオフェンとドゥーマの試合が終わった後のこと。ブリーフィングルームでは、続けて先の実戦におけるスコアの発表が行われていた。
サンダークの口から、イーダル試験小隊のスコアが。紅の姉妹による戦果は圧倒的で、いくらか謙遜した成果であったが、それでも充分と言えるだけのものだった。

カムチャツキー基地での、ユウヤ達が撤退した後のスコアも発表されていた。
光線属種を含めて、1000以上。驚異的な数字であると言えた。

「なお、ガルム実験小隊とバオフェン試験小隊の混成部隊によるスコアもほぼ同等の数字です………試験結果の詳細は全て本基地のライブラリに登録してあります」

ガンカメラによる映像は、全て保管されているという。それが、イーダルとガルム、バオフェン達が勇猛果敢に戦ったという結果を示す、動かぬ証拠であった。

「っておい、シロー。お前のスコアは?」

「入ってない。不知火は試験の対象となる機体じゃないしな」

ならば、あの機体の損耗度はどうなのか。ユウヤは訊きたくなったが、サンダークより語られた言葉に意識を引っ張られた。
自分達が撤退した後、基地を奪還したソ連軍は被害状況の調査を行い、そこで発見した試作兵器を日本帝国に返還したというのだ。

それも、発見してから二日後という早さで。欠落・不明部品もないということは、完全に返還されたということだった。

(それだけの期間で、何かが分かるのか………? いや、いくらなんでも)

ソ連は99型砲を手に入れるために基地を犠牲にしたのだ。ユウヤを含むアルゴス小隊の面々はそう思っている。
なのに、ここに来て日本に対して協力的な態度を取るのはどういうことなのか。

そして、ユウヤにとっては更に予想外なことが発表された。ソ連は壊滅したというジャール大隊に、栄誉あるヴォールク勲章を授与することを決定したというのだ。

(………死んでからも、利用しようってのか)

少年兵が祖国を護るために戦った。隊長はロシア人である。それは、美談になるだろう。
勲章という"証明"があれば、それはより確固たるものになる。

だが、ユウヤは真実を知っていた。新兵器の発射を妨害するため捨て駒に使われた姿を知っている。
ソ連上層部の、ジャール大隊に対する態度もだ。死んでもいいではなく、死ねと。そう言っている他ないような命令が下されたことも。

(だが、これで………士気は上がるだろう。だが中佐はこれを良しとするのか?)

答えは出なかった。出ても、できることは何もない。一介の衛士である自分が、この他国の地で何を言えるのか。
米国であっても、ただの個人が軍全体の何を動かせるというのか。

(俺に何が言えるのか………それに比べて、お前たちはどうなんだろうな)

ユウヤの視線の先には、クリスカとイーニァの姿があった。たった2人で1000体を撃破、戦術面において少なくない貢献をした衛士を。
カムチャツカではあまり言葉を交わせなかった2人は、相変わらずの様子だった。

少なくともユウヤにはそう見えた。

(ん………いや、少し違うな。クリスカの奴、体調が悪そうだが)

ユウヤの目には、いつもより少し顔色が悪いように見えた。なにかあったのだろうか。
そこで、ハッとなった。前線に居たというあの2人なら、ラトロワ中佐が最後にどうなったのかを知っているのかもしれないと。
勇敢に戦ったことは疑っていないが、知っている人間が居れば。

ユウヤはスコアの発表が終わり、解散が告げられた直後には立ち上がっていた。
走り、クリスカとイーニァに駆け寄る。

「ちょっと待ってくれ!」

「………ブリッジス少尉か。英雄金星章を持つ英雄が、何かようかね」

「それは………」

言葉に詰まるユウヤ。サンダークは誤解しないで欲しい、と無表情に言葉を付け足した。

「それだけの価値が無い者に、勲章は授与されない。あの場において最善の判断を、行動に移せる者は多くないだろう」

嫌味ではなく、素直な敬意をもっての言葉だ。そう主張するサンダークの言葉だが、ユウヤはどこか嘘臭いように感じていた。

「と、望みの言葉ではなかったようだな。それで、この者達に何の用かね」

「いえ、その…………個人的に話をしたいだけで」

馬鹿正直に答えることは、ラトロワ中佐に関連することに疑いを持っているという内心を吐露するに等しい。
故の、誤魔化すように選んだ言葉だった。

「ほう………個人的に、かね」

「はい。同じ実戦を経験した衛士として話がしたいのです。クリスカとは、無人島でも協力しあった仲ですので」

相互意見交換、という観点から言えばおかしな話ではない。
だが、証拠としては弱いだろう。ユウヤもそれは自覚していたが、サンダークから返ってきた言葉は少し想定外となるものだった。

「成程な………そうだった。カムチャツカでは一度、中尉に迷惑をかけたようだしな。貴官がいなければ、拙い事態になっていただろう」

「友軍としての義務を果たしただけです。その場に居合わせたのも偶然ですので」

絡まれたのは、意識してのことではない。だが、助力になったのは確かだった。
それが決め手となったのか、サンダークは納得するように目を閉じた。

そして、10分の時間が与えられた。先に戻るというサンダークの背中を見送ったユウヤは、少し顔色を悪くしたクリスカに向き直った。

「………なんだ」

「いや。顔色が悪いと思ってな」

「貴様に心配される覚えはない」

けんもほろろな対応。そこに、明るい声が飛び込んだ。

「ユウヤ、また会えたね」

「ああ。イーニァも、その、元気だったか?」

「うん。クリスカは、ちょうしがわるいみたいだけど」

「ああ………BETAをいっぱい倒したからか?」

ユウヤはイーニァに対し、子供に語りかけるような口調で話した。
そして、クリスカにも心配そうな口調で言う。

「………頭痛か? 風邪かもしらねーから、軍医に見てもらった方がいいぞ。こじれると相互評価試験どころじゃないしな」

「ああ………そのつもりだ」

「そ、そうだな」

ユウヤは素直な回答が返ってきたことに対して、少し驚いていた。
今のクリスカから、カムチャツカに居た時のような触れた者を問答無用で傷付けるような危うさは見られない。
まるで別人のような。ユウヤは、少し疑問に思いつつも訊きたいことを口にした。

「ラトロワ………中佐。ああ、先ほどの話の。敬愛すべき救国の英雄だ」

「ああ、俺もそう思う。お前たちは、中佐がどんな風に戦ったのか知ってるのか?」

「………分からない。私達は単機任務だった。どんな死を遂げたのかも知らないな。それに、私達に聞くよりも確実な方法がある」

カムチャツカでの戦闘記録は全て公開されているので、そこから調べてみたらどうか。
クリスカの意見は最もなものである。それでも、現場に居た衛士の生の声を訊きたかったのだ。
それでも、分からないというのならば仕方がない。ユウヤは、渋々と頷きながらそうすると答えた。

「ブリッジス少尉………感謝する。他国の軍人である貴様が、わが祖国の衛士の死を悼んでくれるとは思わなかった」

「な、んだよそんな。俺達も助けられたんだ、感謝もするさ」

「そうだな。私も彼女のように、祖国のために戦って…………」

そこで、クリスカの言葉は途切れた。続いたのは、苦悶の声。
クリスカは自分の頭を抑えると、小さくうめき声を上げた。

「お、おい大丈夫か?」

「あ、ああ………いけない、もう時間だ。私達は行かなければならないが」

「そうだな………無理をさせちゃ、中尉が怖いしな」

「おかしな真似をしなければ怒らない。それで、もういくが」

「ああ、分かった」

「ばいばい………ゆうや」

「ああ。サンダーク中尉の許可が取れたらまた、な」

「うん、またね」

そう言って去っていく2人。静かになった空間に佇むユウヤ、その背後から声がかかった。

「おい………何してんだよ、ユウヤ」

地の底を這うような声。明らかな怒気を含んだそれに、ユウヤは冷や汗をかいた。
振り返れば、予想通りの姿が。タリサは怒りの形相と共に、ユウヤに詰め寄った。

「なに、話してたんだよ」

「別になにも。中佐の最後を訊きたかっただけだ」

「ふん………あいつらなら、見てても教えてくれないと思うけどね」

「そうとも思わないけどな………いや」

祖国のために死んだ、彼女のようになりたい。そう言っていたと口にしようとしたユウヤは、そこで口を噤んだ。
中佐の死因には、ソ連の上層部――――エリート揃いのロシア人が絡んでいる。
そのエリートの1人であるクリスカ達が、彼女達のように死にたいという。それは、嫌味にも程が過ぎる皮肉のように思えた。
ユウヤはリスカの敬意にそういった成分が含まれていないだろうことは分かっていたが、人の心は読めないものだ。
目の前の、怒気を振りまいているタリサの内心も。

「ああ、ひょっとしてデートに誘ってんのか?」

「今夜はパーティーだもんな。タリサが呼ばれてるのかは怪しいけど」

「はあ、なんでだよ」

今夜に開かれるのはユーコン基地に帰還したことを祝うパーティーだ。
遠征した自分が呼ばれないのは、理屈にあわない。腑に落ちない表情をするタリサに、ヴァレリオはノンノンと指を立てた。

「お前、グアドループでの事を思い出してみろよ………前科者が警戒されんのは全世界共通だと思うけどな?」

それを聞いたタリサは、はっとなった。確かに、不本意ではあるが交歓会という名目で開かれた場をご破算にした自覚はあったからだ。

「ハブ………1人ぼっち………え、嘘だよな?」

「あー、そういう可能性もあるな。あっちもパーティーに出るってな様子はなかったし」

「シローまでっ?! な、なあステラ………っ」

何か嫌な思い出でもあるのか、捨てられた子犬のような目をするタリサ。
対するステラは、満面の笑みになっていた。ユウヤは、やだこれカワイイという、陶酔した声を聞いたような気がした。

「な、なあ………本当なのか?」

「大丈夫よ、タリサ。そんなことあるわけないじゃない」

そう言って頭を撫でる。タリサは少し恥ずかしそうにしながらも、安堵したのがされるがままになっていた。
それを見たユウヤが、呆れ声で言う。

「そんなに一喜一憂することかよ。出られなかったら、それはそれで良いだろうに」

「おいおい、何を他人事のように言ってるのかなーユウヤ君は。つーかそれはいかンだろ」

「はあ? なにがだよ」

ひょっとして、出席しないことで何か。あるいは、周囲に与える悪印象のことか。
ユウヤはそう思っていたが、ヴァレリオは唇の端を斜めに釣り上げながら面白げに言った。

「おいおい、ボケるには早いだろ。さっき話したとこだろうに………唯依姫のことだよ」

「それこそ、何のことだか分からねえよ」

「本当かぁ? それより、なんで唯依姫誘わねえで『紅の姉妹』を誘うんだよ、それこそ訳が分からね………まさか、お前」

小さい方が、という言葉はユウヤの拳によって止められた。
軽い一撃とはいえ鳩尾に拳を受けたヴァレリオが、その場で盛大に咳き込む。

「それで、実際の所は? 嫌じゃないなら、パーティーには出ておいた方が良いわよ」

「ああ………そうだな」

計画に参加した人員の無事を祝う会であると同時に、それに協力してくれたジャール大隊に対する敬意を表明するパーティーでもある。
ここで出席しないということは、その両方を否定する行為と取られる可能性がある。

(考えたいことがあるんだが………今夜じゃなければいけない、ってことはないしな)

やれる事をしない、というのは怠慢である。怠慢は甘えに近い言葉だ。
ユウヤは、この期に及んで前の自分に戻るつもりもなかった。

「そうだよなー。今回の遠征慰労パーティーは公式行事でもあるしな」

主催は国連軍司令部で、スポンサーは各国にある戦術機関連の企業。
なのに日本と米軍の共同計画、その主席開発衛士である自分が。それも99型砲という新しい概念を持つ兵器を初めて発射した衛士がバックレると、どういった事になるのか。
自分だけでは済まない、唯依にまで多大な迷惑がかかってしまうだろうことは、想像に難くなかった。

「そうだな………せっかくの祭りだしな」

「そうそう。まあ、最低限顔出したら文句は出ないだろ。その後はナインローゼスでも行こうぜ」

「ナインローゼスぅ? ………ってそれ歓楽街にある性風俗エリアのこと!? このエロパスタ、もう盛ってんのかよ!」

「あ"あ"?! てめえ………パスタディスってんのかよ、タリサ。舐めてんじゃねーぞ、イタリア軍のレーションは世界最高なんだよ、並じゃねーんだよ!」

「へえ~、それはそれは。でもイタリア軍は世界最弱って言われてるけど、そこんところどうなのよ」

「そういえばそうだな………潜水艦を使っても漁船に勝てなかった国があるとかなんとか。あ、でも噂のEF-2000は例外って聞いてるぜ? なんせ、兵装にナイフとフォークがあるらしいからな!」

「ヴィンセント、裏切りやがんのかテメエっ~~~!」

「はははっ! っと、そういえばシロー、日本人とドイツ人で通じるギャグがあったよな」

「あ~………聞いたことあるよな、って」

ふと視線を上げた先には、クリスティーネ・フォルトナーの姿が。
武は目の下の隈が痛々しい彼女の顔を見て、思い出したように言った。

「………今度はイタリア抜きでやろうぜ?」

発言の先はドイツ人。それを理解したヴァレリオ以外の全員がぷっ、と吹き出した。
タリサとヴィンセントは大爆笑。ステラは横を向いて、耐えるようにして口を抑えているが、肩はプルプルと震えていた。
ユウヤもツボに入ったのか、口を抑えて横を向いている。


「てめぇら~」


ヴァレリオの恨めしくも情けない声が、ブリーフィングルームに響き渡った。
いつの間にかその場より離れていた1人に気がつかないままに。























廊下を歩く足音があった。かつーん、かつーんと、一定のテンポで響き渡っている。
だが彼女にしては珍しく、遅く覚束ないもの。それが、ある場所で止まった。

「こんにちは、篁中尉」

「………小碓少尉」

話をしたいんですが。武の要望に対し、唯依は素直に従った。
誰にも聞かれないように、唯依に与えられた部屋の中で2人。

最初に口を開いたのは、武の方だった。

「まず、互いにおめでとうと言いたいな――――XFJ計画が中止にならなくて良かった」

「――――はい、風守少佐」

カムチャツカでの騒動があった後、XFJ計画はあわや中止になろうかという窮地にあった。
陸軍の大伴中佐から、99型砲の国外試験における責任の追求があったからだ。
元から米国との技術協力に反対する者達は少なくない。
謀略としか思えない今回の事件は、国外における信用性の問題から、計画当初は一時的に収まっていた反対派にまで波及していた。

「………国粋主義者の考えることは分からんよなぁ。どうしてここまで進んだ計画を中止する、なんて意見になるのか」

武には本当に理解できなかった。日本にそんな時間が残されていると、本気で思っているのか。
佐渡ヶ島にあるハイヴが、いつ本腰を入れてくるかも分からないというのに。

「古い時代を見てきた彼らには、彼らなりの意見があるのでしょう………・計画の中止に関しては同意見ですが」

「74式長刀、か。古いものをいつまでも引き摺り回すのは疲れるだろうになぁ………ああ、風守の当主代理らしくないってのは自覚してる。そもそも、俺の血の中に風守のそれは入っていないしな」

「はっ………? いえ、まさか」

「俺のことはどうでもいい。それで――――当主代理だってことは中佐から確認が取れたんだろ? なら、次に俺が何を言いたいのかは分かるよな」

「………命令に反して、99型砲の元に戻ったことですね」

「そうだな。なあ、中尉………いや、唯依と言わせてもらう。どうしてあそこに戻ったんだ? いや、違うな。現状を確認した後で、どうして脱出せずにあの場に残るという選択肢を取ったんだ」

「それは…………万が一を考えたからです」

唯依は素直に答えた。風守武を疑っていたこと。そこから発展する全てについて。
例え裏切っていなくても、自分がいなくなった後でもXFJ計画は完遂できると考えていたこと。

ひと通り聞いた武は、黙り込んだ。そして内心で頭を抱えていた。

(ああ………そりゃ怪しいよなぁ。そういった面は失念してた)

確かに、と武は頷いた。
いかにも誘導されているような状況で素直にそれを信じきるのもどうかと思うからだ。
自分の立場であれば、素直に信じこんでいただろうが。

(俺が楽天的過ぎるんだよな………一方で目の前のお嬢様は考えすぎるというか)

自省癖は変わっていなかった。もっとも、ユーコンに来た当初を考えると格段に成長しているように見えるのだが。
再会した頃の唯依に、カムチャツカでの提案を聞かせればどうか。恐らくだが、ユウヤは出撃さえ出来なかったことだろう。

たっぷり1分。武は考え込んだ後に、掌を勢い良く合わせた。
柏手の音が部屋の中に響き、唯依の肩がびくりと震えた。

「これで手打ち。俺にも悪い所はあったし………ってなんでそんな反応?」

言いつつも、武は何となく分かった。割りとやらかしてきたことが多いが、命令違反は本来であれば重罰である。
そして斯衛は、帝国の他の軍よりも指揮系統を重視する傾向があった。

何もなし、とするには甘いと思っているかもしれない。軽くなっているとはいえ自省癖がある唯依ならば余計に。
武はどうすべきか、5秒考えた後に思考を放棄した。

「これでいいのだー、ってな具合でよろしく。ここで篁中尉に抜けられた方がダメだし」

「ダメ………? 私以外にも、優秀な人員は居ると思われますが」

それだけで重罰を逃れる訳には。反論する唯依に、武は腕でバッテンを作りながら告げた。

「だめ、絶対。計画も半ばを過ぎてるんだ。時間がないってことだな。そこで、だ――――あのユウヤと短時間で仲良くできる逸材がいると思う?」

「それ、は………今の彼ならば可能でしょう」

「無理な可能性もあるって。それに、二回は御免だぜ? あの胃が痛くなる空間を削り取る作業は」

ヴィンセントと協力して仲介に努めた数ヶ月、あれを繰り返すのはお断りだという。
助けられている自覚がある唯依は、そこで黙らざるをえなくなった。

「誰かの代わりは居る………軍という観点で見た場合、唯一絶対に換えの効かない人材なんて、ほとんどいない。だけど、分かるよな」

「はい………それは事態を長期的に見据える余裕がある場合であること。逼迫した状況にある今、人材を徒に浪費する訳にはいかないとは分かります、ですが」

だが、それで指揮系統を、命令違反の重罰を見過ごすのか。唯依は譲れない一線であるように、自分の罪を明らかにすることを主張した。
示しがつかないことは、後に悪影響を及ぼす。斯衛全体に波及する可能性もあるのだと。
至極もっともな意見だった。その上で、武は尋ねた。

「ユウヤ・ブリッジスは篁唯依を信用した。だからこそ応え、カムチャツカで出撃した」

「はい」

「で、だ唯依――――親しい誰かに、死なれた経験はあるよな?」

一変した声は、刃のそれであった。唯依は自分の背中に氷の塊を入れられたかのように錯覚した。
幻である。そう思わせるほどの、質量を持っていたが。

「死なれるのは、誰かが急に居なくなるのは…………戦友を失うことは辛い。多少なりとも衝突していれば。人間としての相手の知れば知る程に」

武は知っている。笑顔は、死に顔になるのだ。この時代はそれが普通。むしろ、顔を見られれば良い方だった。
人は潰れるし、焼かれる。骨さえ残らない場合もある。BETAが相手ならば、脳髄だけになっている可能性も。

「折角、協力してきたんだ。ここまで来たんだぜ? 細かい背景はぜーんぶ無視して考えればいい。ここで計画を降りるなんて、絶対に嫌だろ?」

「っ、当たり前です!」

その声には、意志がこめられていた。叫ぶような、吠えるような。
鋼を思わせるそれは、覚悟を決めた者しか出せない色であった。

「なら――――やってくれ。頼むよ………互いに生きてるんだ。やり直せるんだよ。俺は、唯依の代わりなんて居ないと思ってる。この計画を失敗させたくないんだよ………この通りだ」

武はそう言って、頭を下げた。唯依はその行為を見て、数秒固まった。
いつの間にか、立場が逆転しているような。何よりも、この状況はダメだと思った。

「あ、頭を上げて下さい! 上官が部下に頭を下げるなどと………!」

「嫌だね」

「いやそういう理屈ではなくてっ!」

唯依は焦っていた。内心では切羽詰まっている上に、武の行動が予想外過ぎたのだ。
頭を上げて下さい、では嫌だという。上げろ、というのは命令となる。
だが、部下が上官に命令をするのか。唯依の頭の中は盛大にこんがらがっていた。目の中がぐるぐると渦巻いているような。
唯依はそこで、焦った挙句に叫んだ。

「わ、分かりました! 風守少佐の言うとおりにしますから!」

「その言葉が聞きたかった」

武は頭を上げると、ポケットの中にある録音機を取り出した。少し巻き戻して再生をすると、唯依の焦った声が薙がれた。
『言うとおりにしますから』、『言うとおりにしますから』、『言うとおりにしますから』。リフレインさせる武。対する唯依は、呆然とした表情になっていた。

(ふっ、夕呼先生直伝の………というかもっと別なもの寄越せよあの人は………でもいいや、言質は取れ………いやなんかこの言葉のチョイスは拙いような)

具体的には身近な人物達に盛大な誤解を受けるような。だが、この場においてのリテイクは不可能だった。
武は背筋に流れる冷たい汗を意図的に無視すると、唯依に向き直った。

「ということでよろしく」

「………え?」

「よろしく、中尉。これにて問題は解決。それに、ここからは時間との勝負だ」

元々、ユウヤの技量は相当なレベルにあった。今後はその技量を実技に結びつけていく必要がある。
実戦を経験したことは大きいが、そこまで急激に成長しない。人間が変わるのは、そういった技術ではない。
死を見て発達するのは、技術に非ず。技量を振るう人間の意識だ。
高所にて危ない目にあったからこそ、恐怖を覚える。慎重になる。そのための対策を練る。

”技量”が結実して、”技”に昇華するのだ。それは、人の意識によるもの他ならない。
対BETAだけではない、対人戦にも影響は現れるだろう。米軍でもトップクラスの技量を持つであろうユウヤが、どういった進化を遂げるのか。
戦友と共に成長していくのだ。1人では振るえない技がある。実戦経験から、その理屈を頭ではなく全身で実感出来たのならば。

「ほら、見届けたいだろ?」

「はい。正直な所を言えば――――最後まで」

「素直だな。けど歯切れが悪いな………ああ、俺が裏切る可能性ってのがあるんだよな」

どうすれば信用してもらえるのか。武は椅子に座りながら考え込んだ。
唯依も、釣られるようにして椅子に座る。そして武に勧められるままに、用意していたコーヒーカップを手にとった。
ああ、熱いけど身体が温まると。混乱していた唯依は、どこか惚けた感じてコーヒーを口に含んだ。

対する武は、まだ考え込んでいた。信頼に必要なものは即座に用意できない。
だが、悠長に説得などしている場合ではない。米軍の裏の動きの件もあるのだ。
多少強引でも、ここは押せ押せでいくしかない。武はそう判断し、唯依が冷静な判断力を取り戻す前に状況を“カタ”に嵌める必要があると感じていた。

信頼関係は時間が必要故、この場では不可能だろう。だけど、協力関係であればどうだろうか。

(相互に信用………信頼は無理として…………必要性………担保的な?)

裏切らないという保証があればいいのではないか。武はかつてと今の共犯者達との関係を思い出していた。
互いの秘密を握り合っていれば、裏切りは発生しにくい。バレれば拙い情報があると、迂闊な行動はできなくなるものだ。

そうして武は、名案だというようにポンと自分の掌を叩きながら自らの秘密を明かした。


「俺、実は風守光と一般人との隠し子なんだ」


唐突に落ちた言葉の爆弾。

それを放った武に返ってきたのは、唯依の口から発せられた霧状の熱い液体だった。


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