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マブラヴ3.5章12話・前編を更新

12話の前編であります。予想以上に文字数が多くなったので、前後に分けました。

後編の方は今週の中頃か、場合によっては週末ぐらいになります。




12話 : 混線 ~ noisy words~




暗雲(海)2



誂えられた部屋の中。唯依は目の前にいるサングラスをかけた男を見て、苛ついていた。

「………そのニヤけた顔を止めて頂きたいのですが、少佐」

「おっと、すまん。つい嬉しくて」

少佐と呼ばれた男――――武は反省していない声色で謝罪した後、唯依に向き直った。
先ほどのブリーフィングで大胆にも周囲を巻き込んでみせた勇者は、そのせいか酷く落ち着かないようにみえる。

「ひょっとして、内心ではドキドキ?」

「………ええ。動悸が収まりません」

唯依は震える掌を隠すように握りしめながら、俯いた。思い出すだけで、更に動悸が激しくなる。それほどの事を言ってのけた自覚は、唯依にもあった。

本当は少尉などではない、上官である目の前の男を相手に死んでくれと頼むこと。更には実績も階級も上である4人を相手に、助力を願い出たのだ。唯依は自分の心臓の音が締め付けられるような、胃に穴が開くような感触を味わいながらも、声には出さず目を閉じたままじっと耐えていた。

「それでも、問題なかっただろ?」

「ええ………父に対して恩義を感じている、ということは聞いていましたが」

唯依は内心で戸惑っていた。自分が願ったことは、いつ命を落とすかも分からない実戦の中で、他国の試験小隊まで面倒を見てくれと言っているに等しい。頭がおかしい奴と鼻で嘲笑われて終わるだけの提案が、まさか二つ返事で了承されるとは思わなかったのだ。

「相応の理由があるからだ………クラッカー中隊は、F-15Jが来る直前までは骨董品に乗せられていたからな」

疲労限界が近いオンボロの第一世代機。錆びた鉄の棺桶に近いそれが壊れた後にやってきたのは、バランスに優れた上で近接格闘戦もこなせる優秀な機体だったのだ。

「一説によると裸踊りするほど喜んでいたらしいぜ………いや流石に冗談だって分かるだろ。なんで気まずそうな顔をしてるんだ?」

「っ、少佐の冗談はわかり辛いと思われます」

「いや、今のは俺が悪いのかよ………まあいいや。ちょっと疲れたし、休憩」

武は口を閉ざしつつも、変わらない唯依に対して喜びのようなものを見出していた。
それも一時のことで、直後には本題に入ろうかと、緩んでいた気を引き締めるように表情を変えた。
武は用意しておいた紙を静かに取り出し、唯依に渡した。
唯依は言葉で伝えてこないことを不思議に思っていたが、はっとなると急いで紙を広げて書かれている文章を見た。

ひと通り読んだ唯依は、神妙な顔で徐ろに視線を上げる。そこには、紙とペンを持つ武が居た。
盗聴されている可能性があるため、筆談をしようというのだ。その意図を察した唯依は、紙とペンを受け取ると最優先で確認すべきことを書いた。

(万が一が起きた場合、99型砲は破壊する。その場合に改修すべきは、砲の中枢部にあるコアのみで良いんですか?)

(他の部分は回収されても問題はない。"事"が起きる可能性は、万が一じゃなくて十中八九だ。だからこそ、ユウヤを不知火に載せることを勧めたんだ)

(確証は無いんですか?)

(見せられる証拠は無い。だけどある程度の情報が揃ってるからな………あとは可能性と、勘だ。だけど基地が情報を隠してる話はしただろ? 先の戦闘における機甲師団の少なさも)

(怪しむべき部分は多いです。が、確証が得られない内は控えるべきでは)

(探るのも危険だ。ソ連もそんなにドジじゃない。だけど、次に打ってくるであろう手に対処しないままってのは駄目だろ。ともかく、退去命令が出たらそれに従って欲しい。あとはこっちで何とかするさ。燃料と残弾は節約できる立場に居るからな)

武は、あくまで護衛役に努めると伝えた。
それを聞いた唯依が、複雑な表情を浮かべた。

(ですが………いえ、対処は必要ですね。コアの部分に関しての信憑性は?)

(大きく言えないけどな――――持ってきてる99型砲、あれの砲身の部分に関しちゃ旧式もいいとこだ)

武が書いた言葉に、唯依が驚く。だが、と武は言葉を付け足した。

(コアに関しちゃ“容れ物”もあるから問題はない。後はこっちは任せろ。篁中尉は弐型と開発衛士の安全を確保してくれ)

ここで不知火・弐型とユウヤ・ブリッジスを失うわけにはいかない。
事が起きた挙句にBETAに基地が囲まれるような事態になった場合、出撃済みであれば双方を迅速に退避させられるのだ。武はそこで普通に話すことにした。盗聴されている場合、黙り込んだままだと、不自然過ぎるからだ。意図を察した唯依が、頷く。

「それにしてもきっついよなあ。なんでこんな寒い所にまで来て、こんな心配をせにゃならんのか」

「………ため息が出ますね。ガルム実験小隊の言葉も、どこまで信じていいのか分かりませんし」

「自分達の名前に泥を塗るようなことはしない。それだけは分かるけどな」

あるいは、と武はフランツ達が何を考えているのか推測してみた。

(ユウヤを通じてアメリカの動向を探る、か? 一緒にいる篁中尉から日本の動向を探るって可能性もある………俺がユーコンに居る理由と意味を探っているのかもしれないけど)

武はそうであれば嬉しいと、内心で願っていた。そうとなれば、こちらの狙いと合致するからだ。

アメリカ人であるユウヤに対しては、取り敢えずは敵対的行動を取るのをやめたか――――あるいは、イタリアマフィア的なやり方で接しているのかもしれない。アルフレードがフランツに助言した可能性が高い。状況に応じて、敵対的な意志を隠すことに決めたのか。いざ敵対する覚悟があれば相手が警戒していない方がやりやすいと、そう考えているかもしれない。万が一の時には不意がつきやすくなるし、何より平時においての情報収集も容易になる。そういった方面においてのアルフレード・ヴァレンティーノはかつての中隊の中でも随一であり、最も敵に回したくない相手だった。

(敵対するって状況そのものを想像したくないよなぁ………でも、そうはならないような)

アメリカとユウヤは違うのだ。その辺りのことはもう気付き始めている頃だろう。
後はどこでそれを理解するか。案外、既に悟り始めていて、それが故の快諾だったのかもしれない。

「人間関係は悲喜交交………っと、そういえば訊きたかったんだけど。いや、こっちが提案しといてなんだけどな」

色々と不確定な情報もあるだろうに、篁唯依は武の提案を全てではないが受け入れた。
ユウヤの出撃を許可することもその一つだった。カムチャツキーに来る前までの彼女ならば、ユウヤが99型砲なしに出撃することに関しては、慎重を期して最後まで反対していたことだろう。

「それでも、最後は反対しなかった。賭け………ってのは言い方が悪いか。かなり大胆になったようだけど、心境の変化でもあったのか?」

「変化、というよりは気づいた事が大きくて。たあd臆病に縮こまっているだけでは何も得られないと………そう、思いました」

唯依は内心でクリスティーネとの会話を思い出していた。

「私にも欲目が出たのかもしれません。ここで安全を優先し、ブリッジス少尉を待機させたままにする方が計画を完遂させられる可能性は高まるでしょう。ですが、そのような経緯で完成した機体が、本当に過酷な戦況を切り開く希望になるものでしょうか」

答えは、否である。
唯依はそう判断していた。

「成程な。リスクを恐れるより、あり得る範囲で手札を切ることにしたのか」

「はい――――心から、出来る限りの力を注いだと言い切れるだけの機体を作りたい。ブリッジス少尉を巻き込むことになるでしょうが………」

「いや、むしろ望む所だと思うぜ。逆に、『ようやくその気になったのかよ、遅すぎるぜ』、って皮肉を混ぜた笑みを返されるだけかも」

武は模擬戦事件の後のユウヤの真似をしてみせた。
唯依は、それを見て小さく笑った。確かに、ユウヤがする仕草に似ていたからだ。

「ちなみに、ユーコンに来たばかりの頃の篁中尉の真似もできるけど」

「やめて下さい………後生ですので」

唯依は懇願した後に、目を閉じた。その頃の自分を鑑みるに、苦虫を噛み潰した顔をすることしかできないからだ。

「まあ、それはユーコンに帰ってからにするか。帰還の際の宴会芸にはぴったりだろうからな」

武は悪戯小僧のように笑った。
唯依は引っかかるものを感じつつも、言葉の裏の意味を悟り、頷きを返した。

対する武は、一つだけ確信を抱いていた。

例えどのような事態になろうとも、クラッカーズのみんなが手を抜くことはない。
それは家族も同然だからという甘えではない、矜持の問題だった。

(一緒に戦ってきたからこそ、無様な姿は見せられないよな)

近いからこそ、見栄を張りたい。武は悪戯小僧のような顔で、次に訪れるであろう戦闘への覚悟を決めていった。














ペトロパブロフスク・カムチャツキー基地。その中でも高級なデスクがある部屋の中で、この基地の司令が深い溜息をついていた。
原因は、目の前に居るやや太り気味の中佐が発した言葉にあった。

「費用対効果には疑問が上がる所だが………日本も、途轍もないシロモノを持ち込んでくれたものだ」

基地司令、バラキン少将は99型砲のデータを見ながらため息混じりに呟いた。
その顔は、疲労の色が濃い。

(馬鹿げたことだ。問題は、それを認識していない者が中佐の地位に居るといったことだが)

何より、とバラキンは言った。

「どうあっても手に入れろ、とはまた………作戦は順調に進行中だと貴官は言う。だが成功すれば、これまでの対日工作に費やした苦労が水の泡になってしまうが、中央はどのように考えておられるのかね、ロゴフスキー中佐」

ユーラシアの東側にあるハイヴの間引き作戦は周辺諸国にとっては無視できない義務であった。
最近になってはその苦労を、関係の改善した日本と一緒に分けて負担をしていた。だというのに、と言葉を続けようとするバラキンに、ロゴフスキーはたんたんと答えた。

「どちらに利益があるか、と考えた上での決断でしょう。まさか、中央の意向をお疑いになられているとは考えていませんが………」

「分かっている。だが、失うものを考えるとな。それに………99型砲は確かに強力だ。過ぎる程に………G弾のように」

それまでの概念を覆すような威力。どう考えても尋常なものではないのだ。特別な技術により開発されたのではないかと、疑ってしまうほどに。

「故に手に入れる価値はないと? それは中央の意向に異を唱えることになりますが………」

続く言葉は脅しの類だ。バラキンは常套句のようなそれを聞いた後、首を横に振った。

「………いや、分かっている。だが、本当に可能なのかね? 日本人士官の教育はよく行き届いていると聞く。相手の無能を期待するような作戦であれば、容認はできん」

司令としての最低限の義務感をもっての質問。ロゴフスキーは、顔色を変えずに淡々と答えた。

「褒賞と、その後のバカ騒ぎ………付け入る隙があれば容易な仕事でしたよ。それに、この土地は我等の故国です」

全てが我等の味方である。そう言いたげなロゴフスキーに対し、バラキンは最後まで乗り気な顔を見せないまま告げた。

「そうであることを願うよ………あとはこちらの筋書き通りに進むことを望むまでか」

唯一不確定なBETAの動きも、一ヶ月前に行われた調査によって完璧に近い状態にある。
役者も小道具も全て揃っている、完全に誂えられた舞台に近い状況だった。

「………万事滞りなく目的を遂げられることを期待しているよ、同志ロゴフスキー」













開幕の号砲。戦場にあって響くそれは、巨大な破壊と砂塵を生み出した。

向けられた矛先は海から襲来する怪物の集団。地面に当たればその余波で小型種を吹き飛ばし、直に命中しては紫色の液体と黄色い肉片を宙に舞わせる。

次々と放たれる火力の証が、死を量産していった。
ユウヤはそれを眺めながら、呼吸を落ち着かせていた。この轟音を聞いたのは初めてではない。
驚き慌てることもなく、いくらかの余裕を持てていた。人類の敵である異形の化物の姿も冷静に観察できるほどに。

(しっかしなあ。どうしてこいつらは嫌悪感しか沸かない外見をしてるんだか)

突撃級はさほどでもない。だが要撃級や戦車級に関しては、見るだけで嫌な気分になった。
特に頭部の形状や、剥き出しにされた歯に嫌悪感を覚える。異形の中に人の外見を思わせるものが紛れ込んでいるだけで、こうも忌避感を助長させられるとは。

(ジャール大隊の連中は、いつもこの中で戦ってきたんだよな)

選択肢もなく、連れられるがまま戦場に。命のやり取りが日常になっていたのだろう。
ユウヤは、ここが人の居るべき世界ではないと考えていた。あまりにも命が軽く、儚く散っていく場所だ。
タフな軍人でさえ後催眠暗示を受けなければ狂ってしまう可能性が高いと、そう言われているだけの場所。

それが日常になる。此処は、ジャール大隊にとっての日々の一部なのだ。
戦うことは当たり前。勝てば生き残り、負ければ死ぬ。その選択肢を強いられ続けられる、無慈悲な断崖の縁。

そこで、ユウヤは気づいた。大隊を率いている、ラトロワ中佐のことだ。
唯依の言葉を切っ掛けに、縺れていた糸が解けていくような感覚の中で思考を加速させた。

不知火・弐型を守ることを優先しろ、必要であれば死ね。
それは、ソ連の司令部からラトロワ中佐に向けられた命令と同じだったのではないか。

(いや………あの時も、そうだった。ホスト国の面子に、不十分な機甲部隊)

戦力の分散は愚の骨頂とされている。戦いに数は必要であり、それを分散すれば出来ることも小さくなっていく。
あの時の中佐が正にそうだった。そして、繋がる言葉があった。

(“与えられている役割の中で、拾えるものは多くない”………あの時の中佐は機甲部隊とジャール大隊、軍人の本分を天秤にかけられていたのか)

上官の命令は絶対である。それを捨て去るのであれば、それは軍人とはいえない。
だが命令を遵守し、味方の被害が拡大することを見過ごすのか。ジャール大隊のような年少の衛士達が死ぬことを、ある程度の被害が出ることを良しとするのか。

ユウヤは答えられなかった。実戦に出る前の自分であれば、指揮官の無能を責めるべきだと言ったのかもしれない。
そのような窮地を生み出す原因となった上層部が悪いと、吠えたかもしれない。

反して、冷静な自分が言葉を返してきた。例えそうだとして、一介の指揮官に何が出来るというのか。
そもそもが、そのような状況に陥った時点で何もかもが手遅れなのだ。役割というものは、早々に変えられるものではない。
どうあがいても嫌われ者にしかなれなかった自分。保守派の声が大きい南部の土地で、与えられた役割は必然だった。
軍のように多くの人や権力が集中する場所で、その役割を選択できるものなのか。

好き勝手できるはずがない。だからこそ、捨てるものを選ばなければいけないのだ。
ユウヤは、中佐の責任を追求した時に自分が責められた理由が、分かったような気がした。

同時に生まれたのは罪悪感だ。ロシア人だと、彼女は言った。だけど部下に慕われているのは何故か。
並べられている情報のピースは、気づけばそうだと分かるものが多くて。ユウヤは、心の中に後悔が積もっていく感触を覚えていた。

だが当たり前のように、時間は経過していった。悩むユウヤに、通信が入る。


『ぼさっとしてんなよ、ユウヤ――――状況が動くぞ』











アーサー・カルヴァートとフランツ・シャルヴェは長い付き合いだった。腐れ縁と言われて否定できないぐらいには、同じ戦場を共にしてきた戦友である。
連携の練度を観察すれば、すぐにでも分かるぐらいに。同じように戦っている、他の二人も同様だった。

『そもそも、この程度の密度じゃなあ』

『ちょうどいい塩梅だ。余裕を以って色々な機動を試せるんだからな。お前のようにすばしっこく動くのが得意な衛士にとっては、見せ場もないだろうが』

フランツはそう告げると、36mm砲をやや乱暴に斉射させた。ロックオンもせずに、舐めるように射線を移動させる。
それらはまるで魔法のように、要撃級の頭部の芯に吸い込まれていった。

『飛ばすなあ、お前。そんなに別の小隊の女にいい格好をしたいのかよ』

『アルフレードと一緒にするな。基本的な動作に関するデータは、前の戦闘で取り終えたからな。お前も、少しは真面目にやれ………余計に消耗しない程度にはな』

フランツは視線の端にイーダル試験小隊の機体を捉えながら言う。
アーサーは、鼻で笑った。

『はっ、お前に言われなくても分かってるさ』

返答と、得意の近接戦闘をしかけたのは同時だった。フェイントで要撃級の攻撃を誘発させて回避し、交差気味に短刀でその首を切り裂く。
着地点に、周囲に居た戦車級が集ってくる。それを視認すると同時に、着地の衝撃を機体の運動能力に変えていた。
伸縮する電磁炭素帯をあますことなく推力に変えて、すり抜けるようにBETAの間を抜けていく。

一閃、二刺突、三斬。
鍛えられたカーボンによる数撃が戦車級と要撃級を深く傷つけた。
着地と同時に放たれた一斉射が、標的を空振りした戦車級の群れに突き刺さっていく。

それをフォローするのは、アルフレードだ。アーサーとフランツが撃ち漏らした敵の群れに対し、位置的に危険な個体から順に36mmの劣化ウラン弾を叩き込んでいく。
できるだけ弾を残すように。残弾を気にしながらの中距離からの射撃ではあるが、その的を外すことはなかった。

『――――反応も良し、照準にも問題はなし。前の戦闘より精度が上がってるな』

『そうか?』

『そうか、ってお前………ちょっとは考えろよリーサ。まあ、感覚9、理論1のお前には些細なブレかもしんねーけどよ』

『そういう方面はお前たちに任すわ。まあ、前回よりちょっとは動きやすくなってるってのは分かるけど』

なんでもないように言いながら、突進していくのは要塞級と戦車級の群れだ。
やや敵の密度の高いそこは、新兵ならば必死の領域である。リーサはその場所に無造作に踏み入るように、機体を走らせた。

『よ、っと』

その声と共に、リーサは要塞級から放たれた衝角の一撃を回避する。
見てからではぎりぎり回避できないぐらいの距離だったが、難なく袖にして過ぎると、着地した。

砲撃の体勢に入るが、阻むものはいない。着地した周囲には敵がいなかったからだ。
リーサは敵の群れの中に生まれている空隙の中心に当たり前のように在った。そして絶好の場所だと、至近距離から威力の高い120mmが叩き込んでいく。

その一部には、戦車級の頭部を貫通して後ろにいる要塞級に命中するものもあった。
リーサはどうだ、という笑みを浮かべた。

『必殺フランツの真似~ってか。ぶっつけだけど上手くいったな、褒めていいぞお前ら。あと酒も奢れ、高いやつな』

『おま………こそこそ練習してたのこれをやるためかよ』

驚いたアルフレードに、リーサはしてやったりと笑った。

『撃破率を上げるためにな。そういうフランツも最近になって練習していることがあるとか』

『唐突にバラすな! ………ったく、人の技術を盗むなよ』

フランツは舌打ちをするも、その口元はやや緩んでいた。
目の前の敵を事も無げに切り裂きながら、問う。

『それにしてもリーサよ。今まではそんなことをしなかったのに、どういった心境だ?』

『前々から試してはみたかったんだが………分かるだろ? 最近まではそんな余裕のある状況じゃなかったし』

言われたフランツは、それもその通りかと頷いた。欧州に帰還してから得られたのは、歓迎の声ばかりではない。
欧州陥落の際にその場に居なかった者風情が、という声は小さくなかった。派閥同士の争いもある。参加しないからといって、その余波を完全に避けられるはずもない。
戦闘以外の所でも神経を使わなければならない場所は多く、新しいことを試すような余裕が生まれたのはここ数ヶ月になってからだった。

『できれば中刀ってやつも試したいんだけどねぇ』

『俺もだ。扱いは相当に難しいと聞いたがな』

前衛であればその性能がどういったものか見てみたくなるだろう。それだけに、中刀というものは未来性がある兵装だった。
しかし、長刀よりも扱いが難しいことでも知られている。
短刀であれば、その重量に振り回されることはない。
74式長刀は刀身が長く重量も相当なものであるが、優れた設計者が相当な時間をかけただけはあって、重心バランスなどはよく考えられている。
中刀は違った。近年に開発されただけの、急造と言っても過言ではない兵装であるが故に、まだまだ改善の余地が残されている未完成品なのだ。

現場の要望を取り入れただけで良い物ができる筈がないという、典型的な例であった。

『しかし………人の意見と技術を取り入れる、か』

フランツはふと、統一中華戦線が担当している戦域の方を見やった。
その場所には、懐かしい仲間が居る。

錫姫と呼ばれている彼女。その名前は、何も伊達で使われている訳ではないのだ。
原子番号にして50番の元素。比較的無害な金属であり、柔らかな光を放つそれは、正しい用途で使われればまた違った特性を引き出すことで知られている。
錫の容器に入った水は腐らない。酒が入れば、雑味を消しまろやかにする。

同様に、彼女は様々な技術をあの少年から教えられてきたのだ。

『お前にしちゃ、良い例えだったよなリーサ』

『フィーリングだ、フィーリング。それに姫って付けて広めたのはあの腹黒元帥閣下だぜ?』

『へえ。じゃあ、どうして付けたんだよ』

問われたリーサは、決まってるだろうとバカにするような顔で告げた。


――――銀に似ているからな、と。









          バオフェン
『遅れを取るな、暴風小隊!』

『了解! って姐さんが命令出していいアルか?』

『………大丈夫。現場での指揮の練習も兼ねてるから。危なくなったらフォローする。呉大尉も了承済み』

『ふっ、そんなものが必要になるとは思わないけどね!』

『あいやー、相変わらずイーフェイの姐さんは強気ね。李も見習うと良いアルよ』

『いや、無理。あの怪力女と同じになれってのはハードルが高すぎるだろ』

『よっしあんたは後で肩パンチの刑ね』

『………失言だった、って謝っても遅いよな』

言葉をかわしつつも、彼と彼女達の動きは止まっていなかった。
その連携の精度は、高いレベルでまとまっていた。ガルム実験小隊には及ばないものの、まず一流と言って間違いない域に達していた。
4人共が光州作戦から同じ部隊で戦っていた顔なじみであることも大きいが、このレベルの連携を維持できているのは、連携間を的確にフォローし、調整できる部隊長が居るからであった。

遠距離からの狙撃、中距離からの精密射撃、近接における格闘戦。
指揮に綻びが生まれた際の助言に、密度の高い群れが近づいた時の強引な突破力。
奇跡の中隊の1人であり、全ての状況に応じて高いレベルでの回答ができる彼女、葉玉玲《イェ・ユーリン》の名前は統一中華戦線でも1、2を争うほどに知られていた。

ひと通りの撃破数を稼いだ、アルが口癖である女性少尉、盧雅華《ルウ・ヤアファ》は玉玲の機動を見て、ため息をついた。

『本当に………隊長殿はなんでもできるアルな-。コツとか、あったら教えて欲しいアルが』

『簡単なこと。戦術機の理解と、言い訳をしない努力』

『………その答えも変わんないわねー』

呆れた声を出したのは、臨時指揮官を任せられている緑色のツインテールをした女性衛士だった。
彼女――――崔亦菲《ツイ・イーフェイ》は手持ちの刀で目の前の要撃級を斬り砕いたあと、その言葉に秘められた意味を反芻した。

イーフェイは、ユーリンのことを良く知っている。彼女は酷い初陣を生き残った後に配属された中隊の長を務めていた。
しばらくも経たない内に、その人柄を知った。

(口下手で、いざという時以外は気が弱く、でも芯が強くて、ムカつく程に胸が大きい)

最後は関係ない気もするが、それが特徴だった。そして、衛士としての成長を誰よりも望んでいる努力家であることも知っていた。
人の技術を見てはそれを自分に活かせないか、と考えて盗み取る。ある衛士から言わせれば、自分の機動に対して信念を持たないカメレオン野郎だと蔑むに値するものらしい。
自分の意見も持てない優柔不断な女郎だと。

確かに、と思う部分がある。突出した部分がない、器用貧乏であるという意見もある。
イーフェイも、近接戦限定で言えば自分は彼女に優っているという自信があった。
実際、高起動下においての慣性制御や近接武器の扱いについては真似できないと、ユーリンから言われたことがある。

突出した武器もなく、これといった特徴がない。
だが、統一中華戦線で誰よりも彼女の戦いを見てきた自負があるイーフェイは、それが器用貧乏などという言葉で終わらないものだと理解していた。

どのような状況でも諦めない意志。不測の事態でも対処できるほどの知識と経験。
それを実現の段階にまで持っていける、各種に長じた能力。

(そもそも器用貧乏、って言ってもね。そこいらの部隊のエース級ぐらいにはやれるぐらいの技術を持ってるし)

万能、と言った方が正しいと思うわよ。
それは他部隊から因縁をつけられて、無表情ながらも凹んでいる彼女にイーフェイが告げた言葉だった。

(その後の………懐かれた、っていうの? 年上に対する表現じゃないけど)

それからは、妙に放っておけない存在になった。なんというか、危なっかしいのだ。
常に無表情ではあるが、その中身について知った時もそうだった。身につけた技術の源を聞いたときのことは、今も忘れられないでいる。

――――教わる時間が楽しかった。それを無駄にしたくなかった。どんな技術でも自分のものにして、できる限りのことをしたかった。

惚気のようでそうではないその言葉は、ただ1人と、かつての仲間たちへの想いが根底にあった。

(羨ましいなんて、口が裂けても言ってやらないけれど)

そして思うこともあった。
イェ・ユーリンの教師役であり、誰より想う相手であるただ1人とは、一体どういう奴なのかと。

イーフェイは、ふとユーリンを見る。そして、気づいたことがあった。

『………嘘でしょ?』

思わず、と零す。
危なっかしい隊長殿が、事も無げに周囲の敵を蹴散らした後に、ふと視線を向ける先。
そこには日帝と米帝が共同で開発を進めている機体の、試験小隊――――アルゴス試験小隊の姿があった。

そして、イーフェイは感じ取っていた。
ユーリンの視線の中には、かつての過去を語る時にも浮かんでいた、"特別な色"が含まれていると。












『ユウヤ、右のあいつだ!』

『言われなくてもっ!』

声に、砲撃。それはほぼ同時だった。
ユウヤの乗る不知火・弐型が持っている突撃砲から36mmの弾丸が放たれ、その内の9割が近くにいた要撃級に突き刺さった。

余裕のある距離から、近づかれる前に突撃砲で片付ける。それが今のユウヤに許された、唯一の戦闘方法だった。
調整中の機体での近接戦闘が禁止されているが故だった。

だが、電磁投射砲で一方的に撃ち砕くよりかは実戦を身近に感じることができる。

ユウヤは満足まではいかないが、それなりに実戦を経験できていることを嬉しく感じていた。
次々に現れるBETAに、チームで組んで対処していく。仕損じれば間違いなく命に関わるような事態に陥る。

その緊張感は、ユーコン基地では到底味わえないものだった。

(最前線の衛士は、いつもこんな………いや、俺以上に危険な目に晒されているんだよな)

模擬戦とはまるで違う、命のやり取りが行われている場所に居るという実感。それは口の奥に血が広がっていくような。
鉄の味が唾に交じる。呼吸の一つさえも、以前とは違うような。突撃砲から放たれたものが、外見だけではない、活動しているものの"何か"を壊していく。
油断でもすれば、逆の立場になることは間違いない。全ての五感と思考が、実戦の中に居るということを教えてくれるような。

そして、自分を守るような陣形で戦う仲間の姿を見て、思い知ったことがあった。
縦横無尽に飛び回るF-15の系譜達は、戦場でその力を十全に発揮していたのだ。
BETAを完全に仕留めず、無力化だけをしているが、それでもその撃破速度はユウヤの想像を超えていた。

(こいつら、模擬戦の時とは動きが違う)

実戦になっても衰えないどころか、キレが増している。自分に、今のこいつらと同じだけの動きが出来るか。
俺は本当にこいつと引き分けになったのかと、かつての戦闘の結果を疑うまでになっていた。
ユウヤは戸惑い、答えのない自問に答えないまま、それでも目の前に居る敵に向かって引き金を引き続けた。

『ナイスキル、ユウヤ!』

『………ああ。お前らほどじゃねえけどな』

『何かいったか! ………ってえ、サボってんじゃないよ、"おまけ一号"!』

『いや、俺は護衛役だし。近寄っていない内から手出しする訳にもいかんし。ノーマルの不知火だからしゃばる訳にもいかんし』

F-15ACTVのテストも含まれているんだろう。言外に告げる声に、タリサが鼻を鳴らした。

『だったら、出番が来ないようにやってやるよ』

『素直じゃねえなあ。でもま、万が一の時の備えは必要だよな』

『そういうことね』

ユウヤはタリサ達の会話を聞いて、不思議に思った。こうも優勢であるのに、何を心配しているのかと。
今の所、戦況は大きくこちらに傾いている。圧倒的に有利と言ってもいいぐらいだ。

『アルゴス1。ガルムに続いて、イーダルの方も試験戦域をクリアしたみたいよ』

『な…・…たった1機だってのに』

17分で852体のBETAを殲滅。それが、紅の姉妹のスコアだった。
対するガルム実験小隊は10分で845体のBETAを殲滅したらしいが、それはあくまで4機で成したスコアである。
続いてバオフェン小隊も戦域に居るBETAをほぼ殲滅させたという。対するアルゴス小隊は、まだ目標の72%ほどのスコアにしか達していなかった。

『ふん、早さだけはすげえな………って焦るなよ、ユウヤ』

『分かってるさ。ここで無茶して死んだら、何にもならねえからな』

ユウヤは自分に言い聞かせるようにいった。焦る気持ちは確かにあるが、ここが最後という訳でもないと。
そうしていると、ジャール大隊の少年兵から通信が飛んできた。
主にユウヤと、おまけ役である1人に対してだ。

『しょっぱい戦果だなぁ。アメリカ野郎も金魚のフンなんかやっちゃって』

『ご自慢のレールガンが無ければこんなもんか?』

その後で品のない笑い声が響く。ユウヤはそれに反論しようとして、やめた。
選べない理不尽を抱えさせられた人間は、どこで発散せざるをえないのか。
それが分かったからだ。

『そっちの機体も………前回のあの動きがマグレだったようだね』

『安全な場所から撃つだけのアメ公に、腑抜けたジャパニーズ。お遊びで来てるつもりなら、もう帰って欲しいんだけどなぁ』

『ったく、安全な戦場じゃなけりゃ出てこれないのかよ』

罵倒の矛先はユウヤだけではない。だがその悪意ある声が向けられている先に居る衛士は、じっと空を見上げていた。

『………空に、圧迫感が。占領、されたような』

『あん?』

『気のせいだと良いんだけどな。空に圧迫感を覚えるなんて』

その言葉を聞いた、ユウヤ以外の衛士が武の方を見た。

『おいおい、勘弁してくれよシロー。冗談でも趣味が悪いぜ』

『俺もそう思いたいけどな。一応、注意だけはしといてくれ。そもそも、BETA相手の無根拠な保証なんて有って無いようなものなんだから』

『………一つの意見としては聞いておくわ。残敵は少ないようだから、出てきても対処は可能だけれどね』

何かを感じつつも、直接言葉にはしない。ユウヤは迂遠な言い回しでやり取りをするのを聞いて、首を傾げていた。
言葉にしないというよりは、したくないような空気。それを感じつつも、目の前の敵に対する注意は忘れてはいなかった。

『でも………そろそろクリア、だよな。BETAってこんなもんなのか?』

戦術機甲部隊の数は、それなり程度。それも最新鋭の機体ばかりで固められていない、第二世代機もあるというのに、まるで危機感を覚えない戦況になっていた。
先の戦闘で覚えた恐怖も、今日はまるで感じられないほどだった。
然るべき対処を続ければ、何事もなく撃破できる程度の。敵の数は多いが、このまま対処すれば損耗もなく切り抜けられるだろう。
世界各国を蹂躙したBETAも危険な存在ではあるが、そこまで恐れる存在ではない。ユウヤがそう思い始めた頃だった。

ユウヤは一機でも問題なく対処できるぐらいしか残っていない状況の中で、背にマウントされている長刀を使いたいという衝動に駆られていた。
一度や二度だけなら機体に負担がかかることもないだろう。

そう思い、却下されるのを承知でCPに提案をしようとした――――その時だった。

『ん?』

『どうした、スローイン1』

『いや、なにか………』

最初に気づいたのは、ずっと気を張っていた人物であった。

『気のせいか………? っ、違う! 微かだけどこの揺れ方と気配は………!』

小碓四郎――――白銀武は、通信向こうの相手に、声を大にして叫んだ。

『後方に退く、急げ!』

武は問い返される前に、更に告げた。
切羽詰まった声に、タリサを筆頭とした3人は瞬時に思考を切り替えた。

ユウヤもその声から逼迫感を感じ取っていた。なにが、と確認する前に答えは出された。
CP将校のテオドラキス伍長から、通信が届く。

『い、異常進言複数探知! 震源が移動中………いえ、震度が急に浅くなって?!』

驚きに焦る声。

武が、叫んだ。


『全機、下からの攻撃に気をつけろ!』


戦場となっている平原の地面が爆ぜたのは、武が叫んでから2秒後のことだった。














基地に居るイブラヒムにもその報は届いていた。CP将校が悲痛な声で叫んだ内容。
BETAが地中侵攻からの奇襲を仕掛けてきたこと。そのポイントが、この基地から13kmほどしか離れていない場所ということ。

まもなくしてソ連のHQから各機体へ通信が富んだ。内容は、現在司令部で対策案を協議中であること。
試験はここで中止、次なる行動は別命あるまで待機。そして最前衛で戦っているジャール大隊は迎撃を、殲滅し終えたらその場で待機せよというものだった。

『観測班は何をしてた!? 先のチョンボに加えて………素人がやってんじゃねえだろうなぁ!?』

『補給態勢に入る?! その前に喰い付かれるだろうが!』

内容を把握したイブラヒムが即座に選んだことは、前線に居るアルゴス小隊に撤退の命令を下すことだった。
この場において、前線に留まる意味などない。戦闘開始からそれなりに時間が経過している今では、各機体も相当に消耗している。
決断が遅れればそれだけ、生還できる可能性が減っていくのだ。そう判断したイブラヒムはBETAが現れた位置から、撤退のポイントとルートを割り出していく。

そして、1分も経過しない内に提案が出し、意見を求める。相手はイブラヒムと同じく、試験小隊を前線に出撃させているサンダーク中尉に対してだった。

「この短時間で、流石ですな………ふむ、これならば問題はない。ですが、各小隊は別々の場所に退避させるべきでしょう」

リスクは分配した方がいい。サンダークの提案に、イブラヒムが頷いた。

「しかし、イーダル小隊は退避させなくてよろしいのですか」

「ホスト国としての面子がありましょう。基地から退避するまでの時間を稼ぎます」

「な………ここは貴国における要衝の筈。それをこの時点で放棄するというのですか!?」

驚くイブラヒムに対し、サンダークは冷静に答えた。幾度も危機に陥った経験があるこの基地では、今のような状況も想定されていると。
危機管理マニュアルは、退くことが最善であると。戦力が分散している状態で徹底抗戦を行っても、逆に総合的な被害が大きくなると示しているという。

「光線種が居ない状況であれば、いかようにも対処できます。ただ………装備に関しては残念ながら運搬手段がありませんので、放棄せざるを得ないでしょうな」

「………っ」

「今は人名を尊ぶべきです。ドーゥル中尉、ご決断を」

イブラヒムはそこで息を飲んだ。撤退を決めるまでの早さと、この手際の良さ。
そして、サンダーク中尉の弁はまるで予測されていた出来事だというように淀みが無かった。

イブラヒムは目を閉じた。そして一拍置いて、眼と口を開いた。

命令を飛ばす。

内容は、XFJ計画関係者の基地からの即時退去。
そして、99型付きの者も同様にしろと。

「そして、放棄の方法は斯衛の作法に任せる。篁中尉に伝えろ」

「了解!」


そこでサンダークは、気づいた。先ほどまで不安な表情を押し殺したまま立ってい篁唯依が、いつのまにか居なくなっていたことに。













           ホーム
突然の侵入者に、基地への帰り道を塞がれる状況。その中でも、普段と様子が変わらない小隊があった。

『あー、懐かしいな。母艦級じゃなくて良かったって喜ぶべきか?』

『それでも、流石にタイミングが良すぎるな………フランツ、どうする』

『分かっているだろう、これも想定の範疇だ。幸い、残弾と燃料には多少の余裕がある。パターンDだな。クリスも、人員を連れて基地から退去しはじめている頃だろう』

それにしてもソ連の糞共は。
ボパール・ハイヴで戦ったことのある4人は、あの地で無理やり飲まされた苦い敗戦の味を忘れてはいなかった。

『糞ったれのスワラージを思い出すねぇ。違う点は色々とあるけど………性懲りもなく繰り返しやがるか』

舐めた真似をしてくれる。それが、4人の抱いている素直な感想だった。
声も大にせず、顔を赤くすることもなく、心の中だけで静かに怒の炎を滾らせていた。
だが、それで判断を誤るほど未熟でもなかった。

『このまま撤退するのは簡単だが………その前にアルゴス小隊にコンタクトを取る。いいな、お前ら』

『あー、了解』

通信が向けられたのは、味方の3機に護衛の1機。
護衛とは、ジャール大隊から派遣された機体だ。即座に答えが返ってこない、戸惑った様子は機体の挙動に出ていた。
それを見たフランツは、護衛の機体に繰り返し告げた。返ってきた答えは要領を得ないもので、動揺しているのが見て取れた。
聞き取れたのは、待機命令を無視するのかという言葉だけ。その反論に割り込む者が居た。

『基地に確認を取ったが………一部の通信が死んでる。これはどういうことだ?』

『それは………現在も確認中で』

『ああ、責めてる訳じゃない。現場での情報交換に努めるのは当たり前の行動だろ? それにしても、BETAが通信妨害を行ってくるとは聞いたことがないよなぁ』

『そ、れは』

護衛役が黙った。同じく、BETAがそのようなまどろっこしい手段を使ってくるなど聞いたことがなかったからだ。
そもそも、そのような知恵があるのかも怪しい。アルフレードは黙りこむ少年に、畳み掛けるように告げた。

『分かるだろ? 俺達だってここで死ぬわけにはいかないんだよ。それに、この状況に陥ったのはそっちの不手際が原因だろうが』

真実がどうであるかは知らない。だがソ連は地中侵攻を探知できなかった時点でホスト国の責任を問われる立場に堕ちたのだ。
先の戦闘での不手際もある。そして通信が封じられている状況である今なら、近場に居る試験小隊と直に情報のやり取りをするという行為はなんらおかしくはないことだった。

『それに――――ジャール大隊の情報も手に入るかもしれない。中佐殿の生死もな。お前も、前線で戦っているかもしれない味方を見捨てるつもりはないんだろう』

『っ、そんなの当たり前だ! でも、中佐からの命令が………!』

『前提条件が狂ってるのさ。ホスト国の義務を果たしていないのなら、いくらでも反論は可能だ。それに俺達は無能な上層部に従って死ぬ趣味はない。軍人失格と言われようともだ。それに基地の放棄が決定した今、この場に残ってなんの意味があるのか』

少なくとも、指揮系統がしっかりとしているのかを確認する義務がある。
フランツはそうして、命令を飛ばした。


『――――全機、バカの方に向けて発進だ』


フランツの命令と共に、ガルム小隊は移動を始めた。








一方で、アルゴス小隊は状況の整理をしていた。突然の奇襲に、基地の危機。
このままでは前線の部隊が基地の防衛に回され、自分達は孤立してしまうだろうこと。

『ったく、いつまで待たせる気なんだよ………っ!』

『ここは撤退するべきだろうが、旦那の命令もなしじゃあな』

ユウヤはヴァレリオの言葉を聞きながら、歯を食いしばっていた。
地中から現れたBETAはまだ基地に到着してはいないものの、それも時間の問題である。
ソ連の迎撃が間に合えばいいが、そうでなければ基地にいる全員が無事ではいられないだろう。

だが、基地への救援を進言した所で意味はない。一介の衛士の言葉だけでソ連軍が動かせる筈がない。
護衛を務めているジャール大隊も、すぐに基地に戻ってBETAを迎撃したいと思っているだろう。

そんな没頭している中で、その声は酷く響いた。

『そう来たか………ここまでやるかよ』

『お、おい、シロー?』

『そうだよな。出現直前まで、移動震源は全く観測できなかったということは――――』

ぶつぶつと呟く武。どうしたんだ、とユウヤが問いかけようとしたが、その声はCPからの通信の声に止められた。

ラワヌナンド軍曹から伝えられた命令は2つ。
実験小隊の戦域からの即時離脱と、F地点まで急ぎ後退しろというものだった。

『っ、基地はどうするんだ!? そっちにはBETAが迫ってるんだろ、俺達に何もするなってのか!』

『こちらに関しては、現在協議中です。今は速やかな後退を優先して下さい』

それを最後に、通信が途絶えた。
ユウヤは、そんな悠長なことをやっている時間を歯を食いしばりながら基地のある方角を見た。
突撃級の最高速度を考えれば、もう猶予など残されていない筈だ。

と、そこでユウヤは武の方を見た。

『おい、シロー。お前、さっき何を言いかけた?』

『………移動が終わったら答えるさ。今は急ごう』

そのまま、アルゴス小隊はFポイントへの移動を始めた。
後退にかかった時間は数分であり、道中には何の問題も発生しなかった。

そして辿り着いた直後に、武は通信回線を開いた。

『さっきの答えだが………ソ連の筋書きが読めたのさ。直前まで震動を感知できなかった理由からな』

『………どういう、ことだ?』

割り込んできた声は、ジャール大隊の副官であるナスターシャ・イヴァノアのものだった。
同じく、タリサ達も武の方を見た。

『いくらなんでも地面を掘る時の震動ぐらいは感知できるさ。だけど、さっきは直前までそんな震動はなかった。つまりは、地面に出る直前までBETA達は地面を掘っていなかったことになる』

『それは………BETAが地中トンネルのような場所を移動していたということ?』

『そうだ。そして、それを放置するような間抜けな軍隊はこの地球上に存在しないだろう。一ヶ月前の地中侵攻の際には、相当な被害が出たって聞いたけどな。イヴァノア大尉、その時の穴を埋める部隊が派遣されたとか、耳にしましたか?』

『………答える義務はない。あれはこの基地の問題だ。余所者は余計な真似をせずに、ここで大人しくしていろ』

ナスターシャが答え、ステラとタリサとヴァレリオの表情が僅かに変わった。
彼女が答えた言葉は、穴を埋める必要がある何かが起きたということに関して。
一ヶ月前に地中侵攻による奇襲があったことは否定していない。つまりは、隠蔽されていた情報が明らかになったということだ。

『ところで、話は変わりますが………我々には一ヶ月前の奇襲に関する情報は公開されていないのですよ。内陸への地中侵攻があった、ということは聞いてもいません。大尉は黙秘しろ、という命令は受けていませんね?』

武の言葉に、ナスターシャの顔色が変わった。
動揺しているのが丸わかりだ。そこで武はあることを確信した。

予想通りに自機に入ってきた複数の秘匿回線に対し、通信を開いた。

『小碓少尉………どういうこと?』

『急な派兵。それはフィールドが整ったからですよ。BETAは予想できない、という点を逆手に取ったのでしょう。あとは筋が通れば如何様にでも言い訳はできる』

目的は各国の新鋭機のデータか、あるいは99型砲そのものか。強硬策を取った場合は、国連や米国を敵に回してしまうことになる。だが予想不可能な事態であるという土台があればどうか。機体や兵装を回収しようとする人員に対し、人名尊重というスパイスを効かせればどうか。放棄された基地にある兵装。奪還と復興作業中という建前で蓋をされればどうなるのか。

『それはアタシも考えたよ。でも、前線基地一つとじゃあ引き換えになんないだろ』

『そうとも限らない。俺はソ連の上層部じゃないしな。あちらさんが99型砲や新鋭機にそれだけの価値を見出してるのか。それとも、地下の空洞が想像以上に大きすぎて、埋めるのが大変になったからか。あるいは、ここで基地を奪われたとしてもさほど問題が無いほどの切り札を持っているのか………推測はできるけど、確証なんて得られないだろう』

『そうだな。だけど、あちらさんに何らかの狙いがあったとしても………俺達が付き合ってやる義理はねえよな』

最後に声を発したのは、ユウヤだった。その双眸に浮かんでいるのは、怒りだ。
横から人の成果を掻っ攫おうとする精神。基地の人員や戦術機甲部隊にも少なくない損害が出るだろうに、それを考えない外道さ。ユウヤは、そのどちらにも怒りを感じていたのだ。

『そうだな。ラトロワ中佐のことを考えても、許せねえよな』

『なに? それは、どういうことだ』

『さっきの大尉を見れば分かる。今までの事を思い出せば、分かっちまうんだよ………あちらさんがジャール大隊をどう扱うつもりなのかも』

武はそう言いながら、ナスターシャを見る。彼女の機体は前線に居るであろうラトロワ中佐の方を向いていた。まるで母親を心配する子供のように、意味もないのにそちらを見つめている。武は深くため息をついた。

『前回の戦闘でジャール大隊に下された命令は………アレは、99型砲の試射を妨害するためのものだ。そのためならば壊滅してもいいと、そのような扱いを受けている。その答えはひとつだ。情報を隠蔽しろ、という命令が下されていなかったことにも説明がつく』

『…………要らなくなったか、邪魔になったからか。でも、中佐はロシア人だよな………っ、まさか』

『そのロシア人の指揮官があれだけ部下に慕われているって事実をもっと深く受け止めるべきだったな』

ロシア人以外の者は、優しくされなくて。反対にラトロワ中佐は、ロシア人以外の者からの信頼を勝ち取っていて。
その状況が続いたとして、彼女はそのままで居られるのだろうか。答えは分かりきっていた。ロシア人だと、苦しそうな声で答えた彼女の背中が全てを物語っていた。

さりとて、どうすればいいのか。自分は一介の衛士でしかない。
この土地においては並ぶ者の無い権威と権力を持つ上層部に疎まれているというジャール大隊を救えるはずがないのだ。そうして、ユウヤが途方にくれているときだった。

重輸送ヘリが2機、基地がある位置から離陸したのだ。どちらも輸送ヘリであり、アルゴス小隊が居るFポイントに向かってきていた。

直後に、雑音混じりの通信が入っくる。ユウヤはその声がヴィンセントのものであることに気づき、急いで応答した。
軍用周波ではない、整備用の無線周波。ステラが呟くと同時に、通信が完全につながった。


『ユウヤかっ?!』

『ああ、俺だ! そっちは今のヘリで脱出したのか!?』

無事を確かめるユウヤ。ヴィンセントはやや雑音が入った通信越しに、整備班とスタッフ、帝国軍の人員は無事だという。
イブラヒムや他の者たちも別の退避地点に向かっている最中だと。

だが、次に返ってきた言葉にユウヤと武の顔が驚愕に染まった。



『タカムラ中尉はまだ基地に居る! 99型砲を――――』


そこで通信が途切れた。内容を把握したユウヤの顔が、蒼白に染まる。
事実確認をしようにも、通信は既に完全に封鎖されていた。


『おいっ、ヴィンセント――――っ、シロー!?』


ユウヤが驚きながらに見たのは基地に向かって全速で飛び立った不知火の背中と、こちらに向けて移動してきたガルム実験小隊の姿だった。






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